5


城内。部屋。
まだ雨は降っていたが、明け方程強くは降っていない。クレスはベッドで寝ていて、その近くに椅子を置いて真琴はそこに座っていた。
彼が倒れたのは当日の体調不良に加えて、冷たい雨に長時間打たれた事と対面した現実による精神的な傷が原因の発熱だった。


「全く…、体調不良なら無理して行かなくても…あの後全員起こされたんだから呼べば良かったのに」


アレルは寝ているクレスに視線を向け、小さく溜息をつくと呆れ気味にそう呟く。

どうやらクレス達がここを出て間も無く、騎士団員達は全員起こされ、緊急事態として備え待っていた。
今から村に待機中の者と交代で更に調べるらしく腰にサーベルを下げ、視線を真琴に向ける。


「じゃあ僕は行くから、クレスをよろしくね」
「うん、気を付けて」
「リノ!リノも一緒に行くよ」


真琴の隣にちゃっかり座っていたリノは予想外の言葉に目を丸くする。


「えっ、あたし行きたくな…」
「今回ぐらいヴァレンスの命令を聞きなよ、"天才"の魔法使いなんでしょ?」


アレルの言葉にニヤニヤと笑みを浮かべた。"天才"と言われたのが嬉しかったのだろう。普段ならヴァレンスの命令にはそう簡単に従わないのだが足軽に立ち上がる。


「仕方ないなぁー、あたしの力が必要ならそう言ってって!」


上機嫌のリノはアレルよりも先に部屋を出て行き、それを追うようにアレルも部屋を出た。


一気に静かに部屋には、一定のリズムで繰り返される呼吸音と時計の秒針が進む音だった。


こっちに戻って来て運ばれた際に身体に出来ていた浅い傷は治癒部隊によって治癒してもらい、殆ど分からない状態にはなったのだが外傷的な物以外の治癒は出来ないらしく、熱は下がらなかった。


無論、人の看病などした事がない真琴は何をすれば良いのかいまいち分かっていない。とりあえずと思い借りて来たのは氷水の入った桶とタオル。それを濡らし絞ってクレスの額に乗せた。


「これで…、大丈夫…かな…」


自分の取った行動に不安を感じつつ、再び椅子に座ると小さくノック音が聞こえた。



「はい」
「クレス、大丈夫か…?」


部屋に入ってきたのは同じくメーヌの村に向かった同期のーーー。


「あ、俺はマーティス。さっき一緒にメーヌに行っててぶっ倒れたのも見てたから気になってさ…」


部屋にマーティスは入ってくると、苦笑しながらそう言った。




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