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その短剣が降り下げられる瞬間、クレスは右膝を男の脇腹に叩き込んだ。勿論男は横に倒れる。短剣は音を立てて遠くに突き刺さった。

クレスは苦しさから解放されたと同時にまともに口に入って空気に噎せ、その場に膝をついて激しく咳き込んだ。咳き込みつつ、地面に落ちたサーベルを手に握る。


「っ、まさか最後の悪足掻きをされるとはな…流石騎士と言った所か。これ以上は私の身体が保たぬ…そろそろ替える頃だな」


苦笑を浮かべながらゆっくりと立ち上がると、男はぼそりとその言葉を告げ、クレスに背を向けて走り出す。


「…!逃げ…!!」


『逃げるな』と言いながら立ち上がる。
だがその言葉は言い切れる事無く、立ち上がると同時に世界が歪んだ。
歪んだ世界が正常に戻る頃には既に男の姿は見えなくなっていた。


クレスはゆっくりと立ち上がる。
見失ってしまった悔しさが込み上げてくる。
それと同等に身体の怠さを感じた。

寒い。
浅い傷が痛いと感じない。
乱れた呼吸が治らなかった。

このままここにいても仕方がない為、木に手を当てて支えにしつつ戻って行く。
先ほどの少年が居た場所に戻ると、膝をついて小さな冷たい身体を抱き上げた。

こんな状態になった後に触れた時よりも冷たくなっていた。

そこからまたゆっくりとだが歩を進め村へと戻ってくると、調査を終えた騎士団員達が屋根のある建物の下で待っていた。マーティスはクレスが戻ってきた事に気付くと、 急いでそばに駆け寄る。


「ちょ、ずぶ濡れじゃないか…。もしかして、その少年も…」
「あぁ…、被害者だよ。今回の」


マーティスは目を伏せる。
これで確認が出来た。
少年以外の消息は全て判明していたのだから。


「メーヌの住民は全て…同じ様な方法で殺され全滅だ…、誰一人残っていた者はいないよ…」
「………、そうか」


ぼそりと呟いた。
まだ姿のある者は屋根のある場所へとりあえず安置してあるらしく、その少年も一先ずそこに安置する事となった。
輸送用の馬を連れてきていない為、一旦リードルフへ戻る事になる。


「半分はここに残って待機、残り半分でリードルフから馬を…」


マーティスが他隊員に説明しているのを、半ば上の空で聞いていた。

瞼が重い。
身体が重い。
寒い。



次第に視界が暗くなって行った。



「じゃあ俺もこっちに残るからクレスは……」



マーティスがクレスへと視線を向けると同時に何かが倒れる音がした。



「クレス…!?」



地面に横たわるクレスの姿を見て、マーティスは焦るように名前を呼んだ。




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