5
真琴達はエルネットを追うと、以前一度だけ来た事のある、ヴァレンスが使用している部屋へと辿り着いた。
扉の隙間を覗くも、見える筈もない。扉に耳を傾け、中の会話を聞いていた。
「エルネットさん、来て頂きありがとうございました」
「あたしは彼の為に来たのよ、変な誤解はしないで欲しいわ」
ヴァレンスとエルネットの声が聞こえた。中が見えない為"彼"が誰を指しているのかは分からない。
お互いに顔を見合わせ、「これ以上は聞かない方が良いね」とアイコンタクトを送った瞬間に後ろの扉がゆっくりと開く。
「あ…」
「良ければ、お入り下さい」
扉を開けたのは、優しく微笑むヴァレンスだった。部屋の中にはエルネットと、アレル、クレスも居た。
「真琴…それにリノも…」
エルネットが半ば驚きながら2人の名前を呼ぶ。
入って直ぐの中央には真っ白い箱、たくさんの花が乗った机があった。近づくにつれて分かった事だが、真っ白い箱は棺だった。
「これは…」
「棺、だよ…見れば分かると思うけど」
アレルが真琴の隣に立ち、ぼそりと呟く。棺の中は一面の百合で埋め尽くされて居た。
「誰の…棺なの…?」
「あたしの…、あたしを救ってくれた人よ」
エルネットが叫ぶように呟く。以前本人が何気無く零した"あの人"なのだろうとなんとなくだが悟った。クレスが二輪、百合の花を持って来て、真琴とリノに一輪車ずつ渡した。
「お前らもやってやれ…、一回も会った事なねぇと思うけどな」
真琴は小さく頷くと、棺の中に百合を入れた。
それから間も無くして、エルネットが"帰る"と告げ、花束を机の上に置く。
背を向けるエルネットをヴァレンスは呼び止め、静かに問いかける。
「エルネットさん、やはり、戻っては頂けませんか…?」
「……、あたしはクロスビー以外にはついて行かないわ、あの人が居ない騎士団にあたしは居たく無い。ましてや、あたしは貴方を信じていないもの」
「……」
「失礼するわ」
エルネットはヴァレンスに背を向け、部屋を出て行く。気が付いた時には真琴はエルネットを追いかけ、部屋を飛び出す。
「ちょ、真琴!」
リノも真琴を追って部屋を飛び出す。
アレルもクレスも止めようとしたのだがその手は届かない。
「…やはり、彼以外は認めてくれませんか…」
小さな声で、呟いた。
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