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その村の広場に置かれた古びたベンチに真琴とクレスは腰を掛けた。その近くに老朽化によってボロボロになった看板があり、「メーヌの村」と書かれていた。座っている最中も此方に子供達は来ず、どうやら子供達を説得したようで、少し離れた所で遊んで居た。
「休みの度に…此処に来てるの?」
「まぁな、自分が育った環境が似てる所為かあいつらを放っておけなくて…」
視線を走り回る子供たちに向けると、少しだけ寂しそうな顔をする。真琴でも、それ以外の人が見てもわかる。"ここ"は廃れているんだと。
最低限度の生活をおくるのが精一杯なように見えた。
リードルフから離れた所はどこもこのような感じなのだろうか。
そしてそれと同等にクレスの発言も気になっていた。
「っつか、何で俺がここにいるって…?」
「アレルが"休みの度に行く場所があるんだ"って言ってて…」
「それで手紙だけの為にこんな離れた所に来たって事か…アレルに渡しておけばよかったのに」
「そう言われてみれば…」
確かに、手紙だけの為にここまでくる必要はなかった。部屋の場所は知ってるしましてや同室のアレルに会っていたのだから、代わりに渡して貰えば済む話だったのに。今の今まで気付かなかった事に思わず笑ってしまう。
「その肝心の手紙は?」
「これ…、ヴァレンスさんから…」
真琴は手紙を差し出すと、封筒の中から手紙を取り出し、目を通す。
アレル同様、クレスの表情も僅かに陰った。
「ーーー早いな、もうこんな…」
「それ、アレルも同じ事言ってた…」
その手紙に何が書かれているのか知らないが、アレルも同じような事を言っていたのを思い出す。
クレスは手紙を折り畳み封筒に戻すと、ぼそりと呟く。
「多分、明後日は少し騒々しいかも…しれない」
「明後日…?」
「何時も騒々しいかもだけどさ、それ以上に」
上手く言葉に出来ないようで、言葉が篭る。
真琴はそれ以上を聞くまいと小さく頷き、「分かった」と告げる。
「あと、ちゃんと後で話すから」
「え?」
「俺の事。"自分と育った環境が似てる"って言ったの、気になってんだろ」
気になっていたのだが言わなかった事を勘付かれる。
聞いてはまずいものなのかと少しながらも思っていた為に予想外の言葉でもあった。
「いつか全員に…、アレルとリノにも話さなきゃなんねぇって思ってたから、話す機会があるまで待ってて欲しい」
「…うん、でも言いたくないのなら…」
「ばか、言わなきゃいけないんだよ、これから何があるか分からねぇし」
そう言っててクレスは笑う。
さっき見えた陰った表情とは全く正反対の優しい笑み。
「さて、そろそろ帰るかな…リードルフまで時間掛かるし」
「そうだね…2時間ぐらい?」
「そのぐらいは掛かるか…」
そう言ってたベンチから立ち上がり、離れた所で遊んで居た子供達にそれを伝えると、名残惜しそうに落ち込む。
「また来るから、 な?」
クレスのその言葉につい先ほどまで暗かった表情を一気に明るくさせ、子供達は「ばいばい」と手を振った。
クレスも同じように手を振り返し、真琴と共に馬に乗り、リードルフへ向かう帰路についた。
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