prologue



ーーー暗い。
真っ暗闇の世界を、ただ闇雲に走った。

汗でべったりと頬に髪が付く。
走っている最中に踏んだ石の所為で足の裏が痛い。
水に濡れた地面に足を取られて早く走れない。



ーー逃げろ。
ーー逃げろ。



頭の中では分かっているのに、恐怖と足場の悪さと雨による視界の悪さで思うように逃げられない。

剥き出しになった木の幹に足を掛けて転ぶ。

泥が跳ね上がり口の中に僅かに砂の味が広がった。



咳き込んでいる間に、後ろで足音が止まる。
恐る恐る、後ろを見た。



光を映さない虚ろな目。
釣り上がった口角。
真っ赤な雨で全身を濡らせた身体。



上げた悲鳴は誰にも届かない。





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