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一方アレルは幾度となく放たれる風の塊に、未だに苦戦しているように見えた。最初の一発を体に受けて以降、それを喰らう事は無かったが、この男たちの主郭だと思われる恰幅の良い男に届く一歩手前の辺りで毎度引かざるを得ない状況に陥れられていた。
アレルは魔法は殆ど使わず、自分の身が守れる状態ではない時だけ結界を貼っていた。殆ど使っていないとは言え、それなりの数と一人で戦っている以上、体力は徐々に削がれて行く。
僅かに上がった呼吸のリズムを正すように、浅く短い呼吸をゆっくりと繰り返した。
「何だァ?もう終わりかよ、騎士サマ?」
アレルは特に何を言うわけでもなく、唇を噛んで、その男たちを睨み見つめていた。
リノはすこし離れた所で心配そうに見つめている。今にも飛び出して来そうな程そわそわと動いていた。
「アレル…、やっぱりあたしも…」
「だめだよ、絶対…、出て来ちゃだめだ」
声のトーンは変わらないのだか、何処か強気な、怖さを感じるような感じがした。
そんなアレルに反抗する事は出来ずにその場に立ち尽くした。
(もう少し…、あと…少し…!)
アレルは再び地面を蹴り、主郭を目指して進む。通さないように迫り来る男たちを薙ぎ倒し、時折放たれる風の塊を防ぐ。僅かに頬に掠ったそれが浅く切り傷を作った。
不意に視線を向けたその場所で、タイミングが良かったのであろう、リングを介して魔法が発動される瞬間をアレルは目撃する。
この瞬間を、彼は待っていたのだ。
だがその一瞬を見たが為に僅かに隙を生んでしまった。気付いた時にはもう遅く、今までで1番近い所で風の塊は放たれる。
「隙見せてんじゃねェぞ!」
「ーーーーー!!」
勝った、と男たちは笑う。
リノはぎゅっと目を瞑り、視線を背けた。
だがアレルは小さく笑う。
「ーーー……残念」
「!?」
風を切るような音が小さく鳴った。
その音が鳴った瞬間に、数名の男たちがその場に倒れる。
「随分と大量に集めたモンだな、たった一人に対して」
手にしたサーベルを鞘の中に仕舞う。
そこにはアレルと、もう一人。
「あの時は俺も居たからな、潰したいんなら…俺も居た方が良いだろ?」
クレスはアレルの隣に立ち、笑みを浮かべながら言った。
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