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一方真琴とクレスはと言うと、城から出て行き、アレル達同様にリードルフの中に居た。リノを探して街中を歩くも、その姿は見当たらない。無論、今はここには居ないのだが、真琴達が知るはずもなかった。
「ーーーで、あたしの所に来たってワケ?」
ティーカップを三つトレイに乗せて店の奥の休憩室へとエルネットは姿を見せる。相変わらず男には見えない立ち振る舞いに真琴は思わず視線を送ってしまっていた。
「なぁに?真琴、あたしに惚れた?」
「えっ、あの…」
「ふふっ、冗談よ、冗談」
ティーカップをテーブルに置き、椅子へ腰掛ける。エルネットがティーカップを口へ持って行くと、次いで真琴もティーカップを口へ運んだ。
「結局、リノ達は来てないんだな?」
「あたしの所には来てないわよ。あたしを頼って来てくれたんだと思うと、あたし嬉しくって♪」
エルネットはクレスに擦り寄ると、勢いよく抱きつく。座っていた所為もあって避ける事は出来ずに受け止めると、そのまま勢いに任せて後ろに転倒した。身の危険を少なからず感じたのだろう、エルネットの下でもぞもぞと動き、どうにか頭を出した。
「っ、後ろ姿とか!店の前通ったとか…、何か見て、ねぇの?」
「あ、そう言えば後ろ姿をは見たわ」
「それを早く言えよ」
エルネットの肩を掴み起き上がらせるとクレスも起き上がり、強打したのであろう腰をさすりつつ倒れた椅子を元へ戻した。
「確かねぇ…、2、30分ぐらい前かしら。この街の外に向かって走って行ったわよ?アレルがリノの手を引いて。何か、焦ってるっぽい感じはあったけど…」
「焦ってる…?」
「店の中からじゃ、よく見えないからね。あたしはこのぐらいしか知らないわ」
「それでも聞けて良かった、ありがとう、エルネット。ーーー行くぞ、真琴」
「うん」
僅かながらも情報が得られたのは運が良く、クレスと真琴は忙しなく立ち上がり、店を後にしようとする。
「あら、お礼は?」
「…….、後でまた来る!その時まで待っててくれ」
扉が閉まると同時に取り付けられた鈴が軽やかに鳴る。
その光景を見て、エルネットは笑みを零した。
「全く…、青春してるわねぇ…」
ジャケットのポケットに手を居れ、ハンカチを取り出す。中には隠すように包まれた、十字架のペンダント。
それに視線を下ろすと、エルネットらしくない、どこか寂しそうな笑みを浮かべ、誰にも聞こえない様な声でぼそりと呟く。
「ーーークロスビー…、あたしも、 もっと早く変わるべきだったのかもしれないわね」
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