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「リノ!」

一目散にリードルフの街を駆け抜けて行くリノをアレルは追いかけ、リノの名前を呼ぶとその腕を掴んだ。
不意に引っ張られるような状態になったリノは、後ろにバランスを崩し転びそうになるのだが、アレルはそれを抱き留めた。

身長差的にアレルの胸の辺りに埋まった顔を上に上げると、堪えていたのであろう涙が一気にぽろぽろと零れ始める。



「どうしよう…、あたし…、どうしたらいいの…?」
「…、とりあえず、君の話を聞かせて欲しい。何で真琴に言わなかったのか…」


リノは小さく頷き涙を拭うと、近くの低めな石垣へと腰を掛けた。次いでアレルもその隣に寄りかかる。


「真琴は…、あたしにとって、初めての同性の友達なの。彼女が"アリス"の候補者だってわかった時、教えるべきか教えないべきか…迷った…」
「…...、リノにとって彼女が大切なのは分かってるつもりだよ。でも、いつかは知らなくちゃいけなくなる。なのに敢えて言わなかった理由は…?」
「あたしが…、真琴の願いを知っていたから…」
「真琴の…?"アリス"になったら叶えられる願い?」


リノは一瞬言葉に詰まった。
答える事は簡単な事だ。
だが、それが、"アリス"になれなくても叶ってしまう願いだと、リノは痛い程に痛感している。
暫く黙り込んだ後、口を開く。


「死ぬ事、死ぬ事だったの…真琴の願い」
「……!?」

アレルは驚きを隠せずに、言葉を失う。
リノはそれを確認するも話を続けた。

「"選者"が真琴を選んだのはきっと、真琴の願いが"死ぬ事"だったから…真琴が死ねば"アリス"を巡る争いは必ず始まる。物語の最初の人物になる予定だった…」
「だけど、始まりは彼女ではなく、ラルに…」
「真琴が殺し合いになるって知ったら、きっと真っ先に死のうとする…そう思ったらあたし…」


リノは再び泣き出した。
零れる涙は止まる事を知らず、膝の上で握りしめた手の甲に沢山の雫が落ちた。
アレルは黙ってリノの隣に立つ。


「だけど…、今はどうだろう」
「…え?」
「リノは、今の真琴を見て何か思ったりしない…?」
「……」
「僕やクレスよりもリノは一緒に居る時間が長い、一緒に居る事で真琴は何か変わったかもしれないよね?」


リノは真琴を思い浮かべる。
初めて会った時から、ついさっきの事まで。
まだ数日しか経って居ないが、何か違いを感じるような気がした。


「ーーーー最初より、表情が変わった気がする…」


最初は冷たく、何があっても興味を示さないようで、どことなく怖さに似た何かを感じていた。それに関して真琴には何も触れずに、何時ものままのリノで対応していた。気付かないうちに真琴に慣れていたのだろう。ふと思い返してみれば、表情が柔らかくなっていた気がした。


「大丈夫、君がそう思うのなら、きっと真琴はもう死を願ったりしないよ。何で話さなかったのが…、本人に話してあげなきゃね」
「‥…うん、ありがとう。アレル」


アレルは優しく笑う。リノは涙を袖で拭い立ち上がる。一瞬だけアレルの表情が変わると、リノへと顔を近づけた。不意な出来事に若干リノは驚く。静かに、耳元で囁く。


「リノ、走れる?」
「何で?」
「……、城を出てからずっとつけられてる。こんな所で戦ったら住民を巻き添いかねないからね…。ーーー…行くよ」

アレルはリノの腕を引き、リードルフの外れへと走り出した。
その後を追うのは複数人の武装をした男たちだった。




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