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「アレルの言ってる事が正しければ、最後の一人以外は誰も候補者の事を覚えている事はねぇって事か…。"それ"が間違ってるとは思えないけど」

クレスは自嘲気味に言う。
確かにこれはアレルの勝手な憶測にすぎない事だが、きっと間違ってはいない。"アリス"になれるのは、候補者のうちのただ一人。それ以外の候補者が居なくなっても何ら問題は発生しないのだ。"たった一人がアリスになる"と言う絶対の決まりが覆る事はなく、今まで伝えられてきた事ならば。


「…...、私、何も知らなかった…」


真琴がぽつりと呟く。それと同時に、リノの顔が僅かに翳り真琴から視線を背けるように顔を伏せた。


「"アリス"になれるのは一人だけ、同じ候補者を殺さなきゃいけないとか…、そんなの、知らなかった…」
「リノ、お前…、話してなかったのか…
?」
「…っ!」


視線は一斉にリノへ向く。
少し前に、クレスに言われた事をリノは思い出す。


『"候補者"の最終的な運命は変わらない』


最終的な運命とは、生きるか、死ぬか。
それ以外の選択肢はない。
その二択のどちらかを選ばなければならないのだと、"アメディウスの"候補者は蝶を宿した時に必然と悟る。

だが真琴は。"アメディウスの"候補者ではなく、"選者"が選んだ別世界の候補者なのだ。必然的に悟るという概念が通用しない。


今ここで、初めて知った事。

リノが、今まで話さずに隠してきた事。


「…っ、ごめん!」
「リノ!」


リノはそれだけを言って、部屋から飛び出して行った。クレスが呼ぶ声に反応もせずに。


「僕が行く」


追いかけようとするクレスの肩を掴み、ぼそりと小声でアレルは呟くと、リノを追う様に走り出した。




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