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選者が姿を消して、暫くの間は沈黙が続く。
その沈黙が破られるように、小さな声がした。


「…、ミ、ル…?」
「!」

ミルは視線を抱きかかえたラルへと下ろした。ラルの頬には零れた涙が模様を作る。
ラルは力なく笑い、ゆっくりと腕を伸ばすとミルの瞳に溜まった涙を拭う。



「泣か…、ないでよ、君の泣き顔はみたくないんだ…」


先ほど選者が言った事が本当ならば、彼は間も無く死ぬ。信じ難い事だが、それは目に見えて居た。抱き抱えるミルの腕がラルの体を介して透けているのだ。段々とその身体が質量を失って行く感覚を、嫌でも感じていた。


「ねぇ…、お願い、言ってもいい?」
「何、何が良いの…私に出来るなら…」
「最後に…、ぎゅってして欲しいんだ…」

彼が彼女に向けた、初めての、そして最後の願いだった。まだ溢れる涙をぐっと抑え、質量を失い始めているラルの身体を抱き締めた。ラルも背中に腕を回す。


「…、ありがとう。」


そう言って笑った。身体が白い光を淡く発し、光の粒は天へと少しずつ登って行く。消えて行きそうな身体を留めさせるように、より一層深く抱き締めると、ラルは苦笑いを浮かべる。


「…、痛いよ、ミル…」
「嫌、嫌…、何処にも、行かないで…っ」


返事になっていない言葉を返す。それに対しても苦笑いを浮かべると、片手をミルの頭の後ろに回し、優しく撫でる。溢れさせまいと堪えてきた涙が耐え切れずに溢れ出る。嗚咽を漏らして泣くミルを撫で続けた。


「仕方ないよ、これが、僕達の運命だったんだ…」
「仕方なくない…!っ、私が、ラルの事をみんなに教えたから…」


"双子は不幸の子"、そう呼ばれていたのにも関わらず打ち明けてしまったからーー。
後悔だけが胸の中に渦を巻いていた。
不幸がまだ続くのが、怖い。



「君の所為じゃない、あの時、みんなに僕の存在を言った時…、吃驚したけど嬉しかったんだよ…?」
「…?」
「僕は認めて貰えないと思ってたから…、君の双子として認めて貰えて…、嬉しかったよ…」


嬉しかった。
彼の本当の思いだ。
嘘偽りのない、
彼自身の思い。



「君には、幸せになって」



その言葉を言い切った途端に、より一層強い光が彼の身体を包む。

約束の時が、
運命の時が、
訪れる。


「……..、でも、僕は、もっと…、幸せを願っても…、良かったのかな…」



ラルは光となって、ミルの腕の中から完全に姿を消した。


一匹の、蝶を残して。




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