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催しは終わり、閑散としたホール。
後片付けもほぼ完了していた。
真琴達は着ていた服も脱ぎ、今迄通りの服装になると、特に予定もない為、ホール内をウロウロとしていた。

暫くして、ミルが姿を現し、真琴達の元へ駆け寄って来た。


「今日は、本当にありがとうございました…!」
「お礼を言われるような事、あたし達はしてないよ?」
「寧ろ呼んでくれてありがとう」

確かに、手伝える事はしてあげようと思ってはいたがその手は使われる事なく、ミルの覚悟と勇気。それだけで成し遂げられてしまったのである。
お礼を言われるよりも、言う立場になりたくも思った。


「でも、よく言えたな。あんな王都の人間が沢山いる中で」
「凄く…、怖かったけど、それよりもどうにかしたいって気持ちのが強くて…」
「君の勇気はきっと、みんなにも届いてる。あとは君達次第だね」



これからがどう回って行くのか、全ては彼女達次第になってくる。
少し不安そうな笑みを浮かべながらも力強く頷いた。


「ミル」



不意に背後から声が聞こえる。
振り返るとそこにはどこか浮かない表情をした、ラルの姿があった。ラルはゆっくりと歩を進め、ミルの前に立った。二人が並ぶと、やはり双子なだけありよく似ている。


「ラル…」
「やっぱり、僕は君と対等にはなれない」
「!」
「僕は君と同じように生きていないんだ、王家としての勉強も、何もしてない…」


隠され続けた真実が齎した答えの一つだった。
王家に生まれた子どもはミル一人。
ラルは存在しない、ただの一般住民としての扱いを受けていた。王家に生まれた子どもならば必ずといっていいほど、それなりの教養を受ける。
この15年間のブランクは大きい。

「私が、私がなんとかするわ!」
「無理だ!僕はずっと、このまま…」
「これから沢山学べばいい、それでいいの…私が今迄もらって来た物を全部、今度は貴方が貰う番。貴方が頑張る間は私も頑張る。お父様もお母様も私が説得してみせるわ!」


ラルの両手を包むように握り締めると、はっきりとそう伝える。僅かに手は震えていたが、彼女の瞳は真剣だった。
ラルはその瞳をじっと見つめると深く俯いた。
ぽたり、と地面に一雫の涙が零れ落ちる。


「馬鹿だ…、君は本当に…、馬鹿だよ…」


ずっと望んで来た。
誰にも気付かれないように必死に隠しながら。
これが普通なんだと自分に言い聞かせて、何も望まないように気持ちに蓋をして、厳重に鍵を掛けた。

いつの日だか分からない、ずっと前の話。
一度だけ、両親に、彼女に、抱き締められた事があった。

きっともう二度とないと思っていたから、叶うのならば。


"もう一度だけ、抱き締めて"


それが彼がずっと隠してきた願いだった。


「私と…頑張ろう?」



ミルはラルへと手を差し出す。
沢山の不安がラルの中に溢れてきた。

それよりも、一人でだめなら二人でならと希望が頭を過る。
差し出された手を掴もうと手を伸ばした。


「…ミル...!」


ミルの背後で何かが光る。
ミルの手を引っ張り自分の後ろへと回すと、その勢いで地面へ突っ伏してしまった。

急な事に目を閉じたミルは、ゆっくりと目を開けた。




「…ラル!?」



ラルの胸には、深々と。
光の刃が突き刺さっていた。




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