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ホールに隣接するバルコニー。
人に酔ったのだろう、真琴はバルコニーへと足を運び、夜風を浴びていた。
日中は暖かいとは言え、夜になれば風はひんやりとしており、頬を掠める風が冷たくて気持ち良い。

きっともう間も無くこの催しは終了すると思われるのだが、ホールの騒がしさから延びる可能性は否定出来ない。
バルコニーの柵へと体重を預けながら空を見上げた。
頭に浮かぶのは、嬉しそうに笑うミルの姿。
優しく笑う客人達。
初めて着たドレスと、初めてのパーティー。

初めてがいっぱいで胸がいっぱいになるのを感じた。
今迄体験したことのない出来事に頭はついて行かないが、何かを感じる。



「疲れたか?」


不意に聞こえた声に反応して振り返ると、そこにはクレスの姿があった。
真琴の隣に立つと視線をホールへと向ける。


「初めてだったんだろ、パーティーとか…その辺。疲れたなら先に戻ってても…」
「大丈夫、少し、人に酔っただけだから…」
「…、なら良い。折角の催しだからな」


安心したように笑みを浮かべる。優しく吹く風がクレスの髪を揺らし、月明かりによって照らされたその髪は綺麗な藍色。思わず見とれるような、綺麗な色。

視線に気付いたクレスは僅かに首を傾げる。


「…何だよ」
「あ、えっと…、何でもない…」
「…、楽しいか?」
「え?」


予想外の質問だった。
楽しい、と言われれば楽しいような気がする。
胸が高揚するような、そんな感覚が真琴の中に渦巻いている。


("沢山、色んな事を知りなさい"…)


エルネットに言われた言葉だ。
この感覚も"知る"と言う概念に当たる物だと思う。体験したことのない出来事に当たり、それに対して何かを感じ、学ぶ。
それは"この世界"に来て幾度となく体験した事だ。


きっと、この感覚はーーーー。




「"楽しい"。とっても。みんなが笑って、同じ事を喜ぶ。それが、とっても…」


真琴は口許が緩む。
その表情に少しだけクレスは驚く。
思い立ったように口を開いた。



「お前さ、そうやって笑ってれば良いのに」
「え…?」
「今、笑ってたぞ。折角可愛い顔してんだから、笑ってないと勿体ねぇな」


不意をついた一言に目を丸くさせる。
何も返答が出来ないまま、クレスはホールから騎士団員に呼ばれ、そのままバルコニーを去って行く。


(笑ってれば…、いいのに…)


両手で両頬を軽く引っ張る。
笑うと言う感覚がイマイチ掴めない。

ただ分かるのは、
僅かに熱い頬と、先ほどの"楽しい"時の高揚とは違う、心臓の高鳴りがあると言う事だった。




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