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「…で、姫様連れて何があったんだよ」
「まぁ…、色々?」



再び客室に真琴とアレルは帰ってきたが、一人増えている。
彼女は先ほど出会ったこの城の姫様、ミル。アレルの隣に座ると丁寧にお辞儀をする。彼女が軽く自己紹介を終えると、次いで4人も名前を名乗る。
優しい笑みを浮かべていたミルだったが、唐突に真面目な表情へと変わる。


「驚かないで聞いて欲しいんです。私の…、私"達"が隠して来た真実の話です」
「真実…?」
「…...、皆さん、ここで使用人として働いているラルには出会いましたか?」


先程ワゴンを押してこの部屋に来た生年だ。
この部屋であってはいないものの、アレルとクレスは過去に二度程会った事があり、四人の頭の中には彼の姿が浮かぶ。


「彼は、私の双子の弟です」


伏せていた目を真っ直ぐと四人に向けると、静かに言い放つ。
そう簡単に信じられる事ではないぐらい、彼女自身が一番よくわかっていた。嘘だと疑われてもおかしくはない。だが、彼女の表情は疑う余地もない。



「…...、それ、本当なの…?」


真琴がぽつりと呟く。ミルは小さく頷くと、再び口を開いた。


「私とラルは双子です。ですが、国はそれをずっと隠して来ました。」
「どうして…」
「王都にだけ広がってる"噂"だろ」


リノの言葉を遮るように窓辺に立って居たクレスは呟く。その言葉に反応し、ミルはクレスをじっと見つめ、リノと真琴も追う様に見つめた。その"噂"の内容を求めるように黙り続ける。クレスはアレルにアイコンタクトを送ると、話すべき事だとお互いに思い、暫くの沈黙が訪れた後に言葉を紡ぐ。


「今から…15年前…、丁度君達双子が生まれた頃の話だ。俺らもつい4、5年前に騎士団に入る前に勉強して知ったから…、正しい事だかは分からねえけど」
「王都で、沢山の双子が謎の死を遂げたんだ。一応、双子"だけ"ね…」


その"噂"の全ての発端は15年前。ミル、ラル、そしてリノが生まれた年の話だった。
今まで平和を保っていたアメディウスの中でも最も栄えていた王都、"リードルフ"。現在も地名も変わっては居ないその場所である日事件は起きた。
リードルフに住む住民の中には双子の子どもを授かる家が多数ある家が多数あった。双子が生まれる事は奇跡とも言え、沢山の人達に"奇跡の子"と呼ばれ沢山の愛情を受けて育って行った。だが、突然、その双子が奇妙な死を遂げる。身体は獣に食い荒らされたように無残な肉片となる者もいれば、肉片とまでは行かないものの、首を鋭い刃物で深々と刺されている者もいた。最初は殺人事件として、騎士団は追っていたものの、その足取りは掴めないまま、また別の双子、別の双子とリードルフに住む双子が次々と死んで行ってしまう。そしてその双子が居た家の者は必ず消息が絶えていた。死んだとまでは分からない。その事件が起きてから間も無くして双子は"奇跡の子"ではなく"悪魔の子""災厄の子"と呼ばれるようになったのだと、彼らは口々と話す。

ミル自身、そこまで細かい内容まで知っては居なかった為、顔は青白くなっていた。
真琴とリノも絶句状態で、何の言葉も紡げない。


「…で、その後ぱたりと双子が死ぬ事は無くなったが、今でも奇妙な噂として王都には残ってんだよ」
「それが原因だとしたら、王様は王家が滅びるのを防ぐ為、王家に双子が生まれたなんて世間に知られたら色々と不祥事が発する…。だからきっと、彼の…、ラルの存在を隠したって事なのかもしれないね」

再び沈黙が訪れる。紡ぐ言葉も見当たらない。ただ静かな時間だけが過ぎて行った。
沈黙を破るようにアレルが言葉を紡ぐ。


「…、もし、それが本当だとして僕達に何を頼むつもりだったの…?僕達は騎士団だ。王家に双子が居るなんて事を世間に知らせる事は出来てしまう。そのリスクを冒してまで、双子である事を打ち明けたのは何故…?」


その言葉は正しかった。
王家に近い場所に住み、国の治安を守る彼ら騎士団ならば情報の漏洩が起きてしまえばその後に起こる事など大体予想はできる。しかもそれに加えて騎士団でも上位に位置するアレルとクレスにその話を持ちかけ、彼らが直ぐにヴァレンスにその話を打ち明けてしまえば、次期に王家に双子が存在する事など分かってしまうのだ。それを冒してまで何を考えているのか、アレルはただ不思議に思っていた。

その質問に対して、ミルは冷や汗を浮かべながら答えを出す。


「私の成人の儀の時、最後に私の挨拶があります。その時に…、ラルの存在を明かします」
「…!?」
「そんな事したら、今まで隠して来たのに全部分かっちゃうじゃない!王家として危ない目に…」
「私はそれでも構いません。そこで、私は騎士団のお二人にラルの背中を押して頂きたいのです」
「背中を押す…?」
「きっと彼は私がいくら話しても出てこない。彼の事を教えるには、出てきて貰わなければならないのです」
「彼の近くに居て、時が来たら前に出せって事か?」
「はい…」


小さく頷く。彼女の覚悟がその表情から伺える。


「…、それを、あの子が望んで無くても…?」


真琴の言葉に若干表情が曇る。
きっと喜ばない事だと、彼女自身が一番よく分かって居た。だが、それ以上に思いがある。
ぽたり、と、握りしめた手の甲に涙が落ちる。いろんな物がミルの中に湧き上がってきた。



「…彼がこれ以上、自分を犠牲にしなくてすむように…認めて貰いたいの…!私が…、この噂を断ち切りたい…!」


嗚咽を漏らしながら途切れ途切れに言う。
その言葉に嘘は無い。
今までの悪い事を断ち切りたいと言う思いが、痛い程伝わって来たのだ。


「…...、分かった。出来る限りの事はする。ただ、その先の事はどうなるか予想は出来ねえけど…」
「明るい方に転がるか転がらないかは君次第だよ。だから、もう泣かないで」


アレルとクレスの言葉に頭を上げる。
感謝の気持ちで再び涙が溢れそうになるもぐっとこらえ、お礼を告げた。


「ありがとう、ございます…っ」
「とりあえず、こっちの予定も済ませるからな…。こいつらのドレス作りに行かなきゃなんねぇし」
「色々終わったらまた来るから…、その時に詳しい話をしよう」
「はい、ありがとうございます」



また後日訪れる事を約束すると、本来の予定だったドレスを作りに行く事になり、城を後にした。



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