3


同時刻。
アレル達が王に会っている頃。
真琴とリノは大人しく案内された客室に居た。大人しく、と言われても豪華な内装の為落ち着くのもままならない。どこか落ち着かない様子で、部屋の中を右往左往しているリノに対し、真琴はソファに腰をかけ、辺りを見回して居た。


「なんか落ち着かない!王家はこんな所で生活してるの…?」
「そう言う、事になるね…」
「真琴も落ち着かない感じ?あたし、普段こんな所で生活してないもんなー…」


どかり、と音を立ててソファに座り、そのまま横に倒れる。特にやることもないのに二人に着いて来てしまい暇を持て余す。
すると、扉をノックする音が部屋に響く。


「はーい」


リノが起き上がり、そう返事をする。
"失礼します"と小さな声が返って来ると、扉がゆっくりと開き、ワゴンを押した一人の少年が姿を現した。使用人だと思われる見た目はリノと大差ないくらいの歳だろう。綺麗な黒髪にライトブラウンの瞳。シャツにバルーンタイプのハーフパンツと、簡単な服装だった。


「お茶をお持ち致しました」


ワゴンの上に置かれた食器が押されると同時にカタカタと音を立てる。中央に置かれたテーブルの前まで来ると手際よくティーカップに紅茶が注がれた。角砂糖が入った小瓶も一緒にテーブルの上に置く。
その少年は愛想笑いを浮かべる事も無く黙々と仕事を進める。その表情はどこか寂しげにもみえる。


「あの、貴方…」
「何でしょうか」


真琴が口を開く。突然話し掛けてしまった為、これ以上言葉が出てこない。少年は特に表情を変える事なく、真琴を見つめた。


「えっと…、その…」
「貴方の!貴方の名前は?」


咄嗟にリノが口を挟む。おそらく彼女の頭の中に浮かんだ唯一の質問だったのだろう。それに合わせて真琴も頷く。
暫くの沈黙の後、少年は口を開いた。



「僕は、王家…ログファ家の城の使用人、ラルです」


名乗ったもののその後の返事を待つ事はなく、"では"と手短に挨拶を告げれば阿頭を下げてワゴンを引きながら部屋を出ようとする。出て行く時に丁度良くアレルも戻ってきた。彼にも会釈をするも、足早に部屋を出て行くのであった。


「おかえり!遅かったね」
「ちょっと、ね…」

リノがそういうと、アレル苦笑いを浮かべながら視線を反らせる。閉められた扉の方に僅かに視線を向けた。何か気がかりな事があるらしく、表情は浮かない。


「そういえば、クレスは…?」


部屋に戻ってきたのがアレルだけだと言う事が気になり、真琴はアレルに聞くと、思い出したかのように口を開いた。


「クレスはヴァレンスに今日の内容を伝えてる所なんだけど…」
「なんだけど?」
「……、何て言えば良いのか難しい所なんだ…個人的には嬉しいような嬉しくないような話かな」



曖昧にアレルは言葉を濁した。
暫くして小さく溜め息を零すと、覚悟を決めたように言葉を紡ぐ。


「君達さ、ドレスとか持って…?」
「ない!!」
「…だよね…、うん」


リノがきっぱりと答える。勿論、真琴が持っている訳もない。アレルは先ほどよりも一層大きく溜め息を吐く。間も無くしてクレスが部屋に返って来る。アレルが二人に対して聞いた質問の答えをクレスに話すと、クレスは瞬時に青ざめる。


「仕方ねえな…、覚悟決めねぇと…」
「もう行く事はないと思ってたんだけどね…」


お互いにアイコンタクトを送りつつ、小声でそう話す。


「お前ら、絶対引くなよ。」
「ドレスが必要な緊急事態発生してるから、ドレス作りに行くけど…」


『絶対に引くな』




声を揃えて言う。



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