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「じゃあお前から死ぬんだな」


男は真琴に向けた銃に力を込める。
しんと静まり返った室内に引き金に指を掛けた音が響いた。
それでも真琴は動こうとしなかった。冷や汗が頬を伝う感覚が気持ち悪い。
でも今ここで動いたら。


(リノに、当たってしまう)


彼女の思いはそれだけだった。
自分が死ぬ事が怖いわけじゃない。
ただ、リノが死ぬ事が怖いと感じた。

真琴にとって初めての"優しさ"をくれた人。



「私は、リノを、殺させたくない」


彼女が死ぬぐらいなら私のが、と心の中で呟く。


「真琴…っ!」


リノが叫んだ。
男は歪んだ笑みを浮かべる。




銃声が鳴り響く。
真琴は痛みを感じなかった。
銃声が鳴ると同時に閉じた瞳をゆっくりと開いた。
ふわり、と琥珀色の髪が風に靡き、ロングコートの裾も同時に靡く。
銃の先が地面に落ちて音を立てる。男の顔は青ざめ引きっつている。
真琴の前に立った人物は腰に着いたサーベルに手を掛けて居たが、それはもう使った後だったようで、鞘に仕舞う音が静かに鳴った。その手は真琴の肩に伸ばされ、優しく摩るように動く。


「大丈夫、もう心配しなくていいよ」

中性的な面立ちの男性が、優しく微笑む。この騒ぎの所為だろうか、時間が経った所為か。気絶して居た男達も目を覚まし再び床に刺さったナイフを手に取る。

真琴に銃を向けた男も、先程までの青ざめた表情は消え、所持していたのだろうナイフを片手に構えた。

「アレル!」

リノがそう名前を呼んだ。真琴の前に居るのは"アレル"と呼ばれる男性だった。
アレルは真琴とリノに向けて笑みを浮かべると、真琴の前に手を制して後ろに下がるように促す。それに従って真琴は後ろに下がった。


「大人しくした方がいいよ、君たちがこれ以上罪を重くする必要はない」


問いかけるように告げた。
アレルの問いかけに答える素振りは見せずにじりじりと距離を縮めて行く。
アレルは小さく溜息を吐き出す。"仕方ないな"とまでは言わないが、表情はそんな感じだ。
一旦下がったもののやはり不安があるのか、真琴が一歩前に出ようとするも、リノが真琴の手を掴み、それを阻止する。


「リノ」
「大丈夫、心配は必要ないよ」


そう呟く。
一人の男が前に踏み出したのを合図にして一斉にアレルの方へ飛びかかる。
ナイフをもった手がアレルに向かって振り下ろされた。
その腕を容易く掴み、項に平手を叩きつける。その時間は僅か3秒。
息をつく間もなくその男は地面に伏した。

他の男が呆気に取られて居るがアレルは気にせず距離を縮めた。覚悟を決めたように襲いかかる男達を身軽に躱して次々と倒して行った。腰についたサーベルを一度も抜く事なくあっという間にその場を制してしまったのだ。


「全く…余計な事をしなければ良いのに」

呆れたようにそう呟くと真琴とリノの方へと近づいてきた。


「大丈夫?怪我、してない?」
「大丈夫、です…」
「アレル!流石!めっちゃ早かった!」
「リノ、君も良い加減にしなよ。なんでもかんでも首を突っ込めば良い訳ないだろ」

"クレスが後で説教するっていってた"と付け足すように言えば、リノな苦笑を浮かべる。
誰もが安堵していた。
野次馬のようにいた人たちも次第に消えて行ったときに、執念深くもまだ諦めていない男が一人居た。それはもうしつこいと呼ばれる程に。
背を向けて居たアレルの首もとにナイフが突き付けられる。少しだけ驚いた様子を見せるも、アレルは至って冷静だった。

「動けば殺す」
「…」
「何だ、騎士団の癖に隙だらけだな」
「そう?」

軽い様子で受け流すアレルに腹が立ったのだろう、男の顔には血管が浮き出る。
ナイフを握る手に力がこもった瞬間にアレルは小さく笑う。

「何が可笑しいんだよ、てめぇ」
「いや、自分の身を守ろうとはしないんだなって思ってさ」
「何言って…」


静かに鞘から刃が抜かれる音がした。


「動くなよ」


陽の光で鮮やかな藍色となった髪の、アレルと同じロングコートを羽織った青年が男の後ろに立って居た。
それからして間もなく、その青年が連れてきたであろう騎士団が店の中に入ってきた。

「クレス」
「お前も気を抜くなよ」

その青年の名前は"クレス"と言うらしい。
サーベルを鞘に仕舞うと、二人は騎士団達を指揮し始めたのだった。



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