5



店の前は人で溢れかえっている。
人達の声で騒ついているものの店の中からは物が引っくり返る音がしている。
扉は乱暴に壊されているものの、中の様子は伺えなかった。

「また"賊"が出たらしいぜ…」
「今はこの店って事かい?」
「まじかよ!早く、騎士団呼んで来い!」

その会話か二人の耳にはいる。
なんとなくだが"賊"と言う言葉の意味が分かった。所謂"盗賊"と言った物だろう。
どんな人物か知らないが、ただ真琴の脳裏に浮かぶのは先ほどの女性だった。


「…っ!騎士団が来るのを、待ってはいられないわ!」
「リノ?」

リノが唐突に人ごみを掻き分けて店の入口へと近づいて行く。
真琴もその後を追った。
壊れた扉に足を引っ掛けないように中に入って行くと、荒れ果てた店内と、店の中に倒れている女性。そして、"賊"であろう恰幅の良いいかにも悪党と呼ばれそうな強面の男性が5人程居た。
"賊"の男性の手にはナイフと硬貨の入った巾着が握られて居た。


「マリア!」

倒れている女性の元に駆け寄る。彼女の名前はマリアと言うのであろう。マリアに外傷は無いように見えた。ただ気を失っているだけだろう。
リノと真琴が中に入ってきたのに気付いた男達は低い声で問いかける。


「ンだよ、てめぇら」
「あんたたちさ、良い加減にしたらどうなの?」
「はぁ?」
「良い歳して盗賊なんてやって、バカだと思わないの?働いて稼ぎなさいよ!」

リノ(15歳ぐらい)に説教をされている大人達がそこにいた。だが素直に聞きいれる訳も無く、男達は歪んだ笑みを浮かべてナイフをくるくると回し始めた。

「お嬢ちゃん、大人に喧嘩売るモンじゃねぇよ?」
「真実を言ったまでじゃない」

二人のやりとりを真琴はマリアの側でただじっと聞いていた。間に入って行くための言葉も見当たらなかったのだが。

リノの口論をしていた男が他の男達に顎で合図をする。
それを見たと同時に、じわりじわりとこちらに近づいて来た。

一人が地面を蹴り上げ、リノとの間合を詰める。ナイフは高く振り上げられ、一直線にリノに向かって降りて来る。


「リノ…!」


危ない、と言いかけたその時に、その男は腹部を抑えて塞ぎ込む。
リノが振り上げた膝が男の鳩尾に入り込んだのだ。男は呻き声を上げて蹲った。


「あたし、悪いけどそれなりに戦えるよ?」
「この、クソガキ…っ!!」


不敵な笑みを浮かべるリノに腹が立ったのであろう、その言葉を呟いたと同時に一斉にリノに向かって男達が間を詰める。
目を閉じて居たリノがゆっくりと目を開けた。
すると同時にリノの足元に魔法陣が浮かび上がる。光を発する魔法陣はリノを下から照らしていた。
風が僅かに吹き、髪を揺らす。

その光景もまた真琴は眺めていた。


「吹き荒れろ!」


リノがそう叫ぶ。僅かに吹いていた風は突然強くなり小さな竜巻のような物が複数個出来上がる。"それ"はリノが手を動かすと同時に全て動き出し、男達へとぶつかる。
舞い上がった身体は床に強く叩きつけられ、手放されたナイフが床に突き刺さった。
一瞬の出来事に呆然とする。

後ろから見ていたものの、さっきまでの笑顔とは違った真剣な表情が横顔ながらも伺えた。
小さく溜息を漏らすと、マリアと真琴のそばに近付き、しゃがみ込む。

「大丈夫?」
「私は全然、マリア、さんも…特に怪我はなさそうだし…」

リノはホッとした表情になる。
安心した、と口にはしないがそう言いたそうな表情だった。
だが、そう安心したのも束の間の事である。

店の奥から、もう一人。
盗賊の中でも一番偉い地位にいるのであろう、貴金属を大量に身につけた男がリノ達の後ろに立っていた。
それに気付いた真琴は声を上げようとする。その声が発する間も無く、男の手がリノの身体に強く叩きつけられた。元々小柄である彼女の身体は簡単に飛び、壁に強く背中を打ち付ける。


「…った…!」
「よくもまぁ、ここまでやってくれたな、クソガキ」

男がジャケットから銃を取り出す。
銃口はリノの方に向けられ
引き金を引けば直ぐに発砲される。
動くのは得策ではない、とリノは分かっていた。かといって魔法が間に合う保証も無かった。ただじっと男を睨む。


「リノ…!」


気付いたら真琴の身体は動き出し、リノの前に立つ。
恐怖は、感じていた。

「真琴…」
「だめ、絶対…撃ったら…だめ…!」

向けられた銃口と男を交互に睨む。
冷や汗が頬を伝うような感覚に鳥肌が立った。




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