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リノに手を引かれて店を出ると、直ぐ近くのまた別の店に入る。
中に入れば衣服がずらりと並んでいた。こんな光景は真琴の居た世界にもあっただろう。無論、彼女はそのような場所に行くような事は早々無かったのだが。

いつの間にか隣から姿を消して居たリノは両手に服を抱えて戻ってきた。
ウエスト丈のジャケットに膝より少し上のワンピース。胸元の蝶の印が隠れるようになっていた。
「着て」と口では言わないが、リノの瞳に真琴の拒否権を受理する気配は無く、更衣室に押し込まれると制服を脱いでそれに着替えた。

「可愛い!これなら違和感ないわね!」
「そう、なの?」

"可愛い"と言われる事も初めてなのだろう。返事が曖昧だった。すると、店の奥から少々小太りの、でも優しそうな女の人が手にショルダーバッグを持って出て来た。

「ありがとう、用意してくれて」
「よく事情は分からないけれど、こう言う物が必要になるのよね。治安が悪い所は本当に悪いから…」

その女性は真琴に心配そうな視線を送る。その言葉の意味をまだ彼女は理解してはいなかった。されるがままに腰に付けられたショルダーバッグの中には、銃と小型のナイフと、小さな巾着に少しのお金らしき物が入っていた。ナイフは見たことがあるものの、銃を生で見るのは初めてで、若干呆気にとられる。

(こんな物、何時使うの…)

正にその通りだった。
こんな物騒な物を使う機会なんて訪れるのだろうか。


「着替えも備品も買い終わったし、何処か行く?」
「何処かって…?」
「あー…、うん、ごめん。あたしの言い方が悪かったよね…」

彼女が感情表現に乏しいのは、リノが見ている限りですぐに分かった。欲望が無いと言うか、生き生きしていないと言うか。よくは分からないけれど、"何処か"なんて曖昧な言葉を向けた事に後悔する。
ましてや、"アメディウス"ではない"場所"から来たのだと告げる彼女に、"何処か"と言っても何も思いつかないであろうに。

「んー…、じゃあ下町でも回ろうか。そんな広くないけど。そしたらあたしの家においで!ね?」
「あ…、うん…」
「よし、じゃあ決まりね!あ!今日はありがとう!」
「良いよ、また来な」

リノが女性に向かって手を振りお礼を告げる。その時に後ろを振り返ると、その女性は真琴に向かって小さく手を振った。それに対してお辞儀をしてリノに着いて行く。



下町の中央広場に近付くに連れて、屋台やらが増えて行き、人の数も次第に増えてきた。小さな子供が中央広場の中央にある噴水の周りを駆け回り、屋台の前で楽しそうに笑い合う夫婦。商談を進めている店主。
見たことはあるはずなのに、真琴にとってそれは真新しく、輝いて見えた。

「…すごいね」
「…?何が?」
「きらきらして見えるの。みんなが」

外との干渉をしないように、他人と関わらないように、心をずっと閉ざして来た彼女にとっては、この光景が日常茶飯事であっても違ってみえた。生き生きとしていて、輝いていた。それを羨ましく思う反面、自分には程遠い世界だとも思っていた。
光景をただじっと見つめる真琴に視線を向けたリノは小さく笑い、真琴と同じ方に視線を向ける。

「確かに、ここは王都からは少し離れてるけど、みんな幸せよ。楽しい。」

リノは幸せを感じていた。
真琴はこのままであればいいのにと無意識の内に願っていた。

だがその願いはすぐに打ち砕かれる事になる。

中央広場からそう離れていない店から、騒音と悲鳴が聞こえたのだ。
その音に釣られて中央広場にいた人たちは走り出す。
それを目で追っていたのだが、リノが走り出したのをみて真琴も後を追う。

辿り着いたのは、さっき服を買った、優しそうな女の人が居た店だった。



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