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下町の中心部にある、言わば喫茶店のような所に来た。そこにいる人物も少女同様、"何か"が違うのである。

20代ぐらいであろう、若いエプロンを付けた女性が少女に近付き、何か話をしていた。それから暫くしてマグカップを二つ運んで来た。

その光景をただ呆然と見つめる。
目の前におかれたマグカップに視線を下ろした。匂いからして紅茶である。鮮やかな赤茶色の水面に自分の顔が映し出され、その顔に表情はない。何がなんだか理解をしてはいないのに、疑問すらも大して湧かない。今までの如く、他人事のように感じていた。

一向に口を開かないのに我慢が出来なくなったのか、少女が口を開く。

「あたしの名前はリノ。リノ=ミリカ。貴女は?」
「……岬真琴」
「岬真琴、か…じゃあ真琴ね。真琴は何であそこにいたの?」
「私は…死のうとして…」

途中まで言って、言葉を紡ぐ事をやめる。
自分自身でも信じていない内容を他人が信じる物か。 きっとこれは目覚めの悪い夢なのだろう、それで真琴自身が納得出来ていた。
そのまま口を硬く結び、俯いていた。


「…"アリス"」


不意にリノがそう口にする。
その単語に酷く聞き覚えがあるような気がした。胸の奥が一瞬疼く。


「貴女は"アリス"の候補者なのね」


すっと指先を真琴の胸元に向ける。
制服のワイシャツの隙間から覗いているのは、小さな蝶の形をした痣だった。
真琴も今リノに指摘されなければ気付かなかっただろう。指を降ろすと、リノが首に付けていたチョーカーを外す。彼女の首すじにも真琴と同じ蝶の痣が着いていた。


「運命って奴かなー…まさか、候補者を助けちゃうなんて」
「候補者って…」
「本当になにも知らないの?」

こくり、と小さく頷く。
リノから見て真琴が嘘をついているようには見えなかったのだろう。
少し黙っていると、苦笑いを零した。


「格好からして何か変だと思っていたんだ。ちょっと長くなるけど、話すわ」



真琴はリノの話を黙って聞き始めた。
先ほどまでは他人事のようだったのだが、今度はそうではなかった。



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