2

昔話、と言ってもそう遠くない昔。
魔導師一族がまだ上位一族であったころ。
だがその頃も王家一族と、魔導師の一族。その2つが国を回していたと世間一般は歴史として認識していた。
だがしかし実際はもう一つ国を動かすレベルで強い勢力を持った一族が居た。その一族は魔導師とは違った形で滅び、『歴史上存在しなかった』一族となった。それ故その一族に関する情報が載った資料の類は王家一族と騎士団が使用する資料庫にすべて保管されてはいるものの誰も目もくれずに、興味すら沸かないように奥深くにひっそりと保管されている。そこまでして『歴史上存在しなかった』ことにした理由としてはその一族が『呪われた一族』だと認定されてしまったからだった。

その認識がされる前、彼ら一族は王家一族の分家に値する地位であった。分家とは言え国政に関わることは殆ど無く、強いてそれっぽい事を挙げると言うならば国が上げる式典の類に参列するぐらいだろうか。彼らは非常に知力に優れていた。魔法が使えない人達がオーブを使い生活出来るようになったのも彼ら一族の発明のおかげと言っても過言ではない。
よって彼らの住む王都一帯にオーブの手助けによる生活が一斉に始まり、より一層栄える都市となったのだった。だがその反面、王都から離れれば離れただけの町村との繁栄と貧困の差が生まれ始めた。楽に生活が出来る王都とその近辺町村に比べ、山を超えるぐらいの遠い町村にはそんな発展はおろか、病気すら完治させることも大した職を見つけることもできないような天と地程の差が生まれてしまったのである。その差の訴えを王家一族に向けても基本は後回しで国を発展させ立派な大国として仕立て上げる事で目一杯となっていた。
そこで立ち上がったのがオーブによる生活を一番最初に始めた一族、後に『呪われた一族』と呼ばれ歴史上姿を消した分家一族であった。彼らは自らが生み出した技術を駆使し、それで得たお金で貧しい町村に生活源として使える物を安く提供していた。正直な話儲け分はまるでないと言って良かったが、王家とは違い話を聞き、少なからず手助けをしてくれた彼ら一族は貧民に大きな支持を受けるようになった。そしてその一族にはオーブによる生活機材の産みの親とも言える2人の魔法使いがいた。その2人は双子。特別高い知力とそれに見合った魔法技術を持ち合わせていたその双子は尊敬の意を込め、更に双子は『幸福の象徴』と言われていた為人々の敬いの対象となり後に『魔女』と呼ばれるようになった。

そこで彼ら一族に転機が訪れる。
先王が病に倒れ亡くなり、王位継承の問題が現れた。正しければ王家一族の長男が王位を引き継ぐのが普通であるがこの一連の快挙により分家である彼ら一族に視点が向いたのであった。彼ら一族には喜ばしいことだったが、『私共には勿体ないことです』と断り続けた。勿論王家一族の不満は計り知れない。ましてや自分達より優れた技術を自分達に与え、近辺市民に与え、実費を削ってまで貧民にも与え。生活が助けられてることすら忘れる程に王家一族は深い深い嫉妬の念を抱いていた。


『このままでは我々王家一族の品位が危うい』
『"あの一族"を、"魔女率いる分家一族"を消さない限り我々は正しい意味で"王家"として頂点には立てない』
『魔導師一族は追放した、人々は彼らを忌み嫌う一族として認識しただろう。ならこの流れで彼ら一族もーーーーー』



『ーーーー消してしまう以外の方法はないではないか』





それから間もなく、彼ら一族の抹殺計画が王家で始まった。


「ーーーーそしてその計画により、王家の分家一族が、老若男女子供問わず秘密裏に殺されました。完全抹殺ではなかったので、少なからず血縁者は残っていますが。」
「…、殺された…?秘密裏…?」
「あくまでも"事件"として見せかけたんですよ、分家一族より先に追放された"丁度いい一族"を利用してね」



利用されたのはその計画が始動する少し前に追放されたーーーーーー『魔導師』の一族。
魔導師に使われた人々に表れる刻印利用し、それを模して分家一族は殺された。
まるで魔導師が追放された腹癒せに王家の分家一族を壊滅させたかのように。
『魔女』と呼ばれた双子が一番残忍な状態であっただろう。たまたま歳の近い兄弟や、双子が多かった分家一族がそうやって命を落としたことにより王都一体に双子は『幸福の象徴』から一転、『呪われた存在』だと呼ばれた。そして歴史上『存在しない』一族として伝えられるようになった。



「ーーーこれが、分家一族の歴史です。歴史上存在しない存在となるまでの」
「………」


淡々と語るヴァレンスの話を聞いたクレスは言葉を失っていた。
すぐに受け止めるには大きい事実。だがヴァレンスの意図が読み取れなかった。わざわざこの話をする必要性は何なのか。


「なんで、この話を今俺に…」
「ーーーーさて、貴方に1つ質問があります」


ぐぐぐっ、と自らの手を拘束する腕に力が篭った。
骨が軋むような感覚に表情を一瞬歪める。


「貴方が自分自身の名字を知らない理由を分かりますか?」
「………は…?」
「いえ、聞き方を変えましょうか。自分の名字を知らない理由・・・・・・・・・・・・・を考えた事がありますか?」


何かを感じ取ったかのように血の気が引くような感覚を覚える。

正直余りにも条件が出揃っていると思った。

分家一族の過去の話を、今このタイミングでこの話をした。
父親にすら教えて貰えなかった自分の本来の名字。



「……正しい名前・・・・・でお呼びしましょう」



嘗て王家の分家として存在した一族の名前。
その名前はーーーーー。





「ーーーークレス・ アングラード」


「王家の勝手な都合で歴史上消され、名前を名乗ることすら許されない"アングラード"一族の血縁者」






[ 180/195 ]

[*prev] [next#]



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -