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頬に何かが当たる感覚がした。
先ほどまで彼女が感じていた不思議な感覚はもう既に消えて、沈んで行くような感覚もない。
今感じているのだとすれば、自分は浮いているわけで無く、背中一面に地面の温もりがあるのと、自分の頬に連続して何かが当たっている事だった。


「おーい!大丈夫ー?」


高めの声が耳元で聞こえるのと同時に若干頬に当たる何かの強さが上がっているような気がする。
ぺちぺちと彼女の頬を指先で叩いているようだ。その音は僅かに吹く風の音に掻き消されるものの、彼女の耳はしっかりそれを聞き捉えている。


「生きてる?ねぇってばーっ!」


閉じていた瞳をゆっくりと開く。
目の前に広がるのは鮮やかな青と、小柄のまだ幼さの残る少女の顔だった。彼女が目を開いたのに気付き、目の前の少女は安堵の息を漏らした。

「良かった、こんな所に倒れてるから心配したんだから。珍しい格好をしているけど、どうしたの?」
「珍しい…?」


彼女の中に残っている記憶を辿る。
飛び降り自殺を試みた事、そこで"選者"と名乗る人物に出会った事。


そして、蝶の止まった手を取った事。



「…!」


今更ながら辺りに広がる世界に見覚えの無い事に気付く。
外国を思わせるような森が左右に広がり、少し先には街のような物が見える。
そして何より、近くにいるこの少女からも何か違うんだという事を肌で感じていた。

オレンジ混じりの茶髪が肩ぐらいまであり、青緑の大きな瞳。
ワンピースを模したような服。
彼女の知っている世界には"こんな服"で"こんな姿"の人物は居ないであろう。

「ここ、は…?」
「アメディウスの下町近くの森。たまたまこの森に用事があって通りかかったら貴女が居たのよ」

淡々と語る少女だが、正直な話、何一つ理解は出来ていなかった。
今まで勉強してきた記憶からすれば、そんな地名の国は存在しない。
ましてや自分が今まで全く別の場所に居たというのに、現在移動した記憶も無いままで別の場所に居るなんて事が信じられる筈も無かった。
ただ少女の言葉を聞き、受け流すように頷いた。
すると少女は立ち上がり、彼女の腕を掴んで立たせる。


「取り敢えず下町に行こう!話はそれから」

返事が帰ってくるのも待たずに少女は、腕を引いて下町へと駆けて行った。



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