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「ーーーーすみません、手伝って貰って」
「別に特に問題ないです」

クレスは教壇の上に積み重ねられた本を順番に並べながら、その少し離れた所で書類の山を仕分けるヴァレンスに答える。
場所はヴァレンスの仕事用の部屋。要するに筆頭騎士用の大部屋だ。普段はそこまで散らかってはいないと言うのに今日は珍しく至るところに本が積み重なっていた。

なぜこの部屋に居るのかというと、それは僅か数十分前に遡る。


リノが城を飛び出して少しした後。
クレスは持っていた大量の資料を手に自室へ向かっていた。
あんな曖昧な返事をしてしまったことを後悔しながら。
少なからず彼女が求める"答え"を知っているのは否定出来なかった。けれどそれを自らの口で伝えてしまっては"そう"なるようにした意味が無い。
いくら知っていたとは言え自分が答えてしまってはいけないことであった。それ故にあんな答え方になってしまったのである。 思い返せばその分だけ後悔が降り積もる。せめて今だけはそのことを忘れようと歩きながら冊子型になっている資料に目を向けた。

"あの一件"ーーーー"魔導師"の一件があって以来、過去に王家との関係があった一族に関連するものを暇を見つけては読んでいた。
それを堺に一方的にどちらが悪いと言えなくなったのが1番の理由だろう。
魔導師の諸々について調べているうちにまたひとつ違ったものを見つけていた。今回手にしているのはそれに関する資料である。資料室でざっと目を通した為断片的な内容は頭に入っていた。とりあえず自室に戻ろうと歩みを進めた先でヴァレンスと行き当たった。クレスと同じ様に資料やら報告書やらの束を抱えて。また少しの間留守にしていた所為で最終処理待ちの物が溜まってしまった上に必要だからと行って貸出していた薬学などに関する本が大量に返ってきて部屋が大惨事なのだと苦笑を浮かべながら告げる。
そこでクレスは手伝いますか?と、話を持ちかけた。自分にもやることがない訳ではないが今のままでは調べ物も捗らないような気がしていたからと言うのもあり、1人てやるよりは早く終わるだろうと思ったのもあった。
最初は申し訳ないと言っていたが溜まってしまった仕事の量に再び頭を抱えて手伝いをお願いすることになり、今に至る。

さほど大きな本棚ではないけれど1冊の本が分厚いものが多い為ひとつひとつが幅を取るが故に落ちてきたら危ないなどの問題からか背の低い本棚がずらりと壁に沿って横並びになっている。本棚と教壇の前を何度か行き来して今は半分程並べ終わったところだろうか。教壇に積み重なった本をまた分別し始める。
黙々と作業に没頭し、大して会話をする訳でもなかったが故に書類に何かを記載する筆記音が部屋に響いた。



「…にしても、貴方もお人好しですよね」


呟かれた言葉にクレスは一旦手を止めた。


「突然何ですか?」
「いや、貴方自身も山ほど仕事があるでしょうし、分けていた仕事も今では1人で、ですし、そう考えるとやっている量は2倍でしょう?手伝って頂けるのは大変嬉しいですし助かりますが

「まぁ……それは否定できないけど、そう言ってる本人が俺の倍以上の書類と睨めっこしたり色々の後片付けだったりで追われてるのに卒なくこなしてる んだからちょっと嫌味にしか聞こえないですよ」
「…、そんなつもりはなかったんですが…」
「………冗談です」


そんな会話をしながらまたそれぞれが作業の手を動かし始めた。
けれどどこか空気が張り詰めてるような感じがする。今までの筆頭騎士とは違って彼が必要以上の距離を詰めることが無かったのが原因だろうけど彼が筆頭騎士に就任してから早数年が経つと言うのに妙な距離感は消え去ることはない。あくまでも仕事上の上司。おそらく今の発言も彼なりのジョークを混じえ、妙な空気感を掻き消すつもりだったんだとクレスも頭ではなんとなく理解していたのだが思わず本音が混じり棘のある言葉を呟いてしまったなぁと口に出さずとも思っていた。

そこでふと、クレスが手を止めて視線をヴァレンスに移した。
ヴァレンスは変わらず書類を読む手を辞めることはなかった。
僅かに感じたもしかしたら偶然、たまたまそんな事を言っただけかもしれない。
言葉の彩と言うか、表現の問題と言うか。
きっとそうなんだとその違和感を内側に押し隠す。


「ーーーーまぁ、以前との仕事の量の差についても否定出来ないです、けど…」
「私には少し及ばなくとも特別部隊で、且つ聖騎士だった貴方達の仕事量は他の一般騎士と比べたら多い方ですし、内容も一般騎士と手分けしてできる物ではないことが大半でしたからね」


じわじわと、感じていた違和感が大きさを増していく。


「ーーーー今はその仕事をする身体は1つしかないわけですし、あまり無理をしない方がいいと思います よ」




ーーーー何故。
何故わざわざ『そんな表現』をするのだろうか。
その口から出てくる言葉はまるで『それ』を指しているかのようで。
偶然、の表現だとしたら余りにも都合が良過ぎる。
僅かだった違和感がその積み重なる言葉によって違和感が確信に変わった。


普段腰に付けていたサーベルはこの片付けの最中は邪魔だろうとすこし離れた壁際に立て掛けてある。強いて言うなら最近レッグホルスターを付けて持ち歩くようになった拳銃くらいだろうか。
静かにレッグホルスターから拳銃を取り出し、トリガーに指はかけないものの銃口を彼の元ーーーーヴァレンスへと向けた。


「……どうか、しましたか」
「ーーーー、なんで」


何故『そのこと』をこの人が知っている・・・・・・・・・のだろうか。


「ーーーーなんであんたが…!」






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