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一方、同時刻、街中。
朝日が昇り眩しい太陽光が窓から入ってきて室内を明るく照らす。青空を一直線に飛び立った小鳥はちゅんちゅん、と鳴き声を上げていた。
そんな様子の外を背後にエルネットはキッチンに立っていた。 シンクの上には自分が普段使っているパステルブルーのマグカップ、と、その隣に来客用で食器棚にしまってあった白のマグカップの2つが並んでいる。
白い湯気と共に珈琲の香りが鼻腔をくすぐった。
2つのマグカップに順々に珈琲を注いだ後エルネットはそのマグカップを持ってリビングに向かった。部屋に置かれた1人がけのソファーに座って、エルネットが差し出したマグカップを受け取った男ーーーーーークロスビー『と思われる人物』は"ありがとう"と笑いながら言って珈琲を啜った。

それを追うようにエルネットも隣の3人がけのソファーの端に腰を下ろして珈琲を口に含んだ。


目の前に居る『この人』は本当に『そう』なんだろうか。
確かに居なくなったと、死んでしまったんだと受け入れたはずなのに。
もしかしたら『そっくりさん』の可能性もあるけれど、彼から漂ってくるオーラは間違いなく『本物』だと思った。
夜夜中に突然姿を現した『その人』に驚きを隠せないエルネットではあったが騒ぎ立ててしまってはまずいとすぐに判断したらしく、特別誰かに知らしめる事もせずとりあえず、と自分の家に匿った。
もし『偽物』で自分を殺そうとするのであれば自らで始末すればいいと考えていた。けれども『その人』は決してそんな事はせず、寧ろ"久しぶりだな"、"元気だったか?"といった言葉を投げかけ、警戒心の欠片もない。
その様子に次第に自分の中にある疑心も和らいで行っていた。まだ若干の疑心はあったものの、自分が淹れた珈琲を何の疑いもなく飲む姿にそれはほぼ完全に無くなったと言ってもいいだろう。

珈琲を飲み干したマグカップをテーブルに静かに置くと、一息ついて、エルネットは問いかけた。



「クロスビー?結局のところ、貴方はどうして"生きている"の?確かにあの時、あたしは死んだんだと認識しているわ」
「 んー……そうだな、どこから話せばいいんだろうなぁ…」


クロスビーもマグカップをテーブルに起き、腕を組んで苦笑いを浮かべた。
神妙な面持ちになったと思うと、掠れ気味の声でぽつりぽつりと言葉を並べていく。


「俺は、色々訳があって"死んだこと"にしなければならない事があった。お前達に沢山迷惑を掛けた事をまず謝りたい、悪かった」
「謝る事なんて…」


謝る事なんてない。
生きていてくれさえいれば。
自分を救ってくれたその人が。
そこに居てくれるなら。


それを言葉にしかけたところで、エルネットは口を閉ざした。


「エルネット」
「.….なに?」


クロスビーの大きな手は、男の人にしては細い、けれども小さくはないエルネットの手の上に重なる。




「俺に、ついてきて欲しい。見せたい物がある」
「見せたい物…??」



クロスビーは静かに頷いて。



「ーーー"理由"を説明するために」








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