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自分の願い。
いつからそれを考えなくなったのだろうか。
こことは全く違う、決して近いとは言いきれない世界で、楽しそうに、妖艶に笑う白兎に投げかけられた交換条件。

真琴の願いを叶えてあげるから、僕の頼みごとを1つ聞いて貰えないか』

素直にそれを聞き入れてこの世界に来て、自分が"特別な存在"であることを知って。半ば完全に忘れかけていた"アリスになった時の願いごと"。



「ーーーーー私は…」




「ーーーーー私は、ずっと、死にたいと思ってたの」


"誰からも必要とされない存在だったから"
ぼそぼそと小声になりながら言葉を続ける。

予想外の返事だったのか、アレルは驚いたような表情を浮かべるも特別それに対して深入りするような言葉は紡がずに、そっか、と小さく頷いて返事をする。



「ーーーでも、今もそう?」
「え?」
「今も君はまだ、死にたいと願う?」


今は。
真琴は自分自身に問いかける。今の自分は、果たして何を願い、何を望んでいるのだろうか。ぐるぐると頭の中を色々な感情が駆け巡る中、唯一と言っていいほどにほぼはっきりと分かっている答えがあった。その答えをぽつり、と小さな声ながらも呟く。


「今は、思ってない、かも…?」



真琴のその言葉に安心したようにアレルは一息付いてから笑みを零し、"よかった"と一言告げた後、腕を伸ばして真琴を抱きしめた。ベッドに座っていたが為に2人はそのままバランスを崩して2人一緒に横たわる。
真琴の心臓の音が尋常じゃないぐらい早く脈打ち、一瞬で顔が熱くなるような感覚に襲われた。とんとん、と、背中を叩くような仕草をするもののアレルが真琴を抱きしめる腕は一層に力を増して言った。


「…ごめんね、もう、あんまり、時間がなくて。このままでいいから、話を聞いて貰えるかな?」


その言葉の意味を瞬間的に理解する。
少なからず目の前に居るのは"アレル"だったとしても、"そうしている"のは"クレス"であって。連日の疲れも溜まった状態に"これ"をしたのであればもうじき終わりが来てしまう。
真琴は静かに腕を下ろして抱きしめられるだけの体制になった。



「急にこんな事を話してごめん。返事がほしいわけでも、君を束縛したいとか、そう言うわけでもないんだ。ただ純粋に、僕自身の"けじめ"として、聞いて欲しい」

「……?」

真琴のセミロングの髪を片側に避けて、耳元に顔を近付けた。余りの近さに足の先から頭のてっぺんまで真っ赤になってしまったのではないかと疑うぐらいに身体が熱い。
早く脈打つ音が聞こえてしまうんじゃないかと不安になる。言葉を紡ごうとして口を開いては閉じて、を繰り返しているらしく、かかる吐息がくすぐったい。
真琴を抱きしめる腕に少しだけ力が篭ってから、一瞬の間を置いてアレルは囁くように、覚悟を決めたかのように言葉を紡いだ。




「ーーーーー僕は、君の事が好きだったよ」



一瞬で頭の中が真っ白になった。火照るような熱さも激しく動く心拍音も、まるで一瞬心臓が止まっしまったかのような感覚だ。暫くしてその言葉の意味を理解し始めたのか真琴はもぞもぞと動き出した。



「お願い、このまま聞いて欲しいんだ。今君の表情を見たら、戻りたくなくなっちゃうから」


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