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一度立ち上がった2人だったがベッドに隣合って腰を掛ける。隣に居るのが「本物」ではないとしても、例えそう見せるための魔法であったとしても、確かに居なくなってしまった彼がそこにいるわけで、なんとも落ち着かない気分になる。
アレルは真琴が視線をあちこちに行ったり来たりさせているのが分かったらしく、ため息をついた。

「しかしまぁ、中々馬鹿な事をするよね、クレスも」
「?」
「"僕"の姿を映すのは良いとして死んだ人の魂を呼び戻すような真似は"絶対にしてはいけないこと"だから。見つかったら即死刑じゃないかな」
「えっ…?!」


予想外の言葉に真琴の表情が一転する。会えた事を嬉しく思ってしまったのに、会わせてくれた張本人の命が危うくなるのであれば再会を喜んでる間も惜しい。一瞬で表情が陰ったのに対してか、または別のことに対してか、アレルは小さく笑ってから、真琴の頭を優しくぽんぽん、と撫でる。


「大丈夫だよ、僕は"例外"だから」
「例外…?」
「ーーーーー僕はもう最初からいなかったこと・・・・・・・・・・・になってるから。"彼"の中に僕の蝶が、"居た事実"があるだけから、問題にはならないよ」

"蝶"を無くした、亡くなってしまった候補生の現実。誰からの記憶にも残らない、残るのは候補生にだけ。生きた証も残したものも何もかもが"都合の良い"ように捻じ曲げられて解釈される。言い出した張本人ではあるがその言葉を紡いだアレルはどこか切なそうで、辛そうな表情を浮かべている。
それに釣られて真琴の表情も同じように変わった。アレルはふと我に返ったらしく、真琴の表情を見るなり慌ててみせた。


「え、ああ、えっと、ごめんね、別に僻んでるとか嫌味で言ってるわけじゃなくて、その…、ようやく 終わったんだなぁって、落ち着いた、と言うか…」

彼にしては珍しくうまく言葉が出てこないらしく、途切れ途切れになるアレルの姿はどこかいつもと、今まで見ていた姿とは違うような気がして真琴は思わず小さく吹き出して笑った。


「…?、僕何かした…?」
「ううん、なんか、おかしくて」
「おかしい?」
「なんか、その、今まで見てきた"アレル"とは違って見えたの」

今まで見てきた彼の姿はもっと気を張っているような、ピンと張り詰めた糸のような。何があったとしても自分の立場に追われて気を緩める事すら許されなかった雰囲気が今目の前にいる彼は真逆の雰囲気である。それをうまく伝えられないかと途切れ途切れに言葉を紡ぐ真琴であったが、アレルは困ったように笑って『そんな風に見えてた?』と返す。


「そっか…、確かにそうかも。こんな結果にはなってしまったけど心のどこかでは安心してる自分が居てね。やっと、何も考えないで怯えながら生きなくて済むんだなぁ、って」
「……」「でもそんな事で笑ってくれて良かった。ーーーーだけどまだ、落ち着かない?」
「……少し、まだ、頭が整理できてないと言うか、一気にいろんな事を知り過ぎてパンクしそうと言うか…」
「仕方ない事だよ、魔導師自分の出生の事は直接話せればよかったんだけど、中々話せる内容じゃなかったし、まして…」



「ーーー最後の最後に、最悪の状態で彼に知らせてしまったからね」


その言葉はあまりにも辛く、冷たい声色であった。直接謝ることも、直接話せる事も出来ないまま、肝心な事を何一つ直接伝えられないまま"終わってしまった"、ーー"自ら終わらせてしまった"彼本人の悲痛の声だった。


「だい、じょうぶ、だよ?」
「?」
「私が言うようなことではない、けど、きっとその思いは伝わってるから…!私にも伝わってるよ…?だから、その、えーっと…」


こんな時に伝えたいことが言葉に出来ない自分に嫌気がさした。少しでもその悲痛な思いが、安心に変わればいいと言う思い一心で声に出したものの伝える為の物が声になって出て来ない。接続詞を途切れながら紡いでいる真琴の手をアレルはぎゅっと握り締めて、小さな声で『ありがとう』と囁く。そう囁いたアレルの表情は柔和でそれを見るなり真琴の表情も和らぐ。


「君は短い間でいろんな表情をするようになったね」
「そう、かな…?」
「うん、会った当初はほんとに、人形みたいな感じだったよ?」


言われてみて確かにそうかもしれない。
今まで考えたことはなかったが感情も増えたような気がする。


「ーーーー1つだけ、聞いてもいいかな?」
「なに?」

何かを思い出したかのようにそう切り出す。
真琴の返事の後に少しの沈黙を迎えた。



「君は、真琴はどんな願いを叶えるために蝶を受け入れたの?」

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