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眩い光が収まった頃にはアレルを取り押さえる人達の姿は無くなっていた。正しくは耐え切れずに姿そのものが消えていた。目の前に居るのはヘルム、の姿をしたエミハルトだけである。姿そのものは変わらずとも漂わせる雰囲気は丸で一転し、彼を知っている者であろうとなかろうと"普通ではない"と言う事を感じさせる程であった。冷たく、鋭い視線がアレルに向けられる。


「っ、何ですか…」
「 いや、長い間目を瞑って放置しておいたが、もっと早く器を入れ替えれば良かったな、と思っただけだ。この器もそんな長期間は保たぬだろう。………まぁ今は良い、お前に見せねばならぬ物があってな」


半ば乱暴に アレルの腕を掴んで引きずるように歩き出した。エミハルトが子供の歩幅に合わせる筈もなく小走り気味に抵抗する隙すら与えさせないようであった。向かったのは家があった場所からそう遠くはない、無法地帯とも言える場所。
近付くにつれて大きくなってくる声にぞっと鳥肌を立たせた。その声が決して"良いもの"とは言えないような雰囲気であったからだ。エミハルトの影でうまく前が見えていなかった、寧ろ見せていなかったと言うのが正しいかもしれない。だが『見せねばならぬ物』の前に着いた途端に後ろに隠すように連れたアレルを前に放り出した。勢いに身を任せるしか出来ずに膝を着くと目の前に広がった"世界"に言葉を詰まらせ、息を呑んだ。

見渡す限りの赤。
トチ狂った様に金属を振り回す人。
助けて、と襲い掛かる恐怖から声すら上がらないまま身体を一瞬で赤に染める人。
決まってそれぞれ同じ位置に刻まれた印。
印のある人無い人の違いは赤に「染めている人」か赤に「染まっている人」かの違いだった。


「なに、これ、あんたが、やらせたの……?」
「"そう"見えるのであれば、そうだろうな?」

込み上げてくる感情はただ1つである。それは決して"父親のもの"ではなくて彼自身が感じた思いであった。込み上げてくるそれに反射的に手が動こうとした瞬間にそう遠くない場所から悲鳴が聞こえる。恐らく大人ではない、甲高い女のひとの声であった。アレルは声のした方に駆け出した。もしかしたら、僅かかもしれないけれど悲鳴の主を助けられるかもしれない、と、ただそれだけを思い願う。木々の隙間を駆け抜けると大きな一本の木の周りだけ草木が捌けている場所へと辿りついた。「何か」が逃げるように去っていく姿を捉えるのと同時に艶やかな長い栗色の髪が風に揺れて綺麗な白のワンピースが視界に入ってくる。ふらつくその子の身体を支えようと腕を伸ばした。手が触れたのとほぼ同じタイミングで白いワンピースが次第に赤に染まる。どこを写しているのか、最早何を見つめているのかすら分からない虚ろな瞳がアレルを、もしくはその後ろの遠い空を見つめていた。間に合わなかったんだ、と、痛いほどに痛感した。静かに木に寄り掛かるようにその少女を座らせると開いたままの瞼をそっと下ろす。追うようにエミハルトがアレルの少し離れた後ろに立っていた。


「なんで、こんなこと、するんですか…」
「"なんで"か、中々面白い質問をするのだな。当然の報いであろう?」
「報い…?」
「そうだ、我々"魔導師"は地位的にも能力的にも長けた種族であった。ただそれだけだと言うのに、嘗ての王は我々が長年に渡り手を貸してきたと言う歴史を無かった事にし、"魔導師は異質で異物な化け物・・・・・・・・・・・・・"であると告げた!簡単に手のひらを返した!」


それがどれだけの影響をその種族に及ぼすか、そんなもの考えてすらいなかったのだろう。王がそれを告げたと言う事は全ての人々はそれを信じ、追い詰め、追放し、「そう」だと分かれば数人、村、街単位で追い回し「仕留めた」。次第に少なくなっていく同じ血を引く同胞。
先に手のひらを返したのは「あちら」側である。ならば残された答えは、彼には1つしか無かった。



「ならば、逆の立場・・・・になるようにするしかないだろう?今の我々と同じ立ち位置に追いやるのが一番だ」


使える物は"手下"として種族に許された力を使い、使えない物は"糧"として力の反動を癒すものとして。
立ち位置を逆にする為に「行動」を繰り返す。
それがエミハルトの全てで望みであった。


「ーーーー、だからって、全く関係ない人を殺していいんですか…?」
「関係ない?どこが?私達以外は全て"そう"でしかない!」


無意識の内にアレルの手が伸びていた。エミハルトの頬を力いっぱい叩く。怒りと悲しみと、色々な感情が混ざって涙が溢れ出て来た。


「そんな過去を知らない人だって居る、知っていたって、ぞんざいに扱ったりしない人だって居る、たった1人の固定観念で好き勝手して…、楽しむみたいにこんなことして…」




「ーーーーあなたは只の人殺しだよ!」






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