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身体を移し替えては当主として魔導師の頂点に君臨していたエミハルトは、王への、復讐と、これまでの”代価”の為に次々と村を襲うようになっていた。村の一部の人はエミハルトによって掛けられた魔法により、頬には歪な印が刻まれ、命令通りに動く人形となり、 彼の周りを取り巻いて居た。その頃には絶対的な”マナ”の許容量を持つようになっていたエミハルトとその一族は王家の騎士団を遥かに超える戦闘能力を兼ね備えるようにもなり始めていた。


村を襲い、楽しむように人を殺す彼らを止める術を持っているのは殆ど居なかったのである。

ただそんな彼らを見続け、「こうはなりたくない」「こんなのおかしい」と思い続けたただ一人の血族が居た。
それがアレルの父親であり、後にエミハルトに身体を受け渡す事になってしまう”アルド=ヘルム”と言う人物であった。

彼はエミハルトの言葉を聞き入れず、「人を操る魔法」を使うことは無かった。それ故に人の血を欲さずとも生きる事が可能だった。




「何故お前は私の言うことを聞かない?王家やその王家に忠誠を示す、汚い種族を滅するのは私たちと、あの王に殺された仲間の為になると言うのに…」
「うるさいな、あんたの言う事なんか聞かない」


ヘルムは読んで本を閉じるとエミハルトとは視線を合わせないように目を伏せながら立ち上がり、立ち去り様に僅かに睨んだ。その姿を見たエミハルトは小さく鼻で笑う。


「馬鹿だな、私から逃げる事など絶対に出来るはずが無いと言うのに…そろそろ、”器”の替え時か…」



それから間も無くして、エミハルトが村を襲うところに居合わせた事の無い(意図的に行かないように逃げていた)ヘルムだが、そのときばかりは今まで通りには行かなかった。村を襲うと言う話を聞いてから暫くの間は家には帰らず、森の、離れた木々の間に身を隠し、生活をしていた。時折近くの村や町に下りた事もあった。自身が歴史上忌み嫌われる”魔導師”の純血種である事は明かさずに人々と接する。何も分からなければ自分を”人”として扱ってくれる。その時だけが唯一自分が”人”だとーーー”人”の真似事に過ぎないがそう思えていた。

今日も同じく、 町に下りようと思った為足を町の方へと向けて歩き出していた時だった。


道を塞ぐように現れた自分より頭一つ分ぐらい背の高い男達が4、5人。ゆらゆらと、足元が覚束ない様子で距離を縮めてくる。彼らの目に光は無く、虚ろで、嫌と言うほどに見てきた歪な印。


「なんだよ、あの人に…当主サマに俺を連れ戻せって命令されたって感じ…?」
「お前も連れて行く、と、当主が、言った」
「ふーん…」


ヘルムは僅かに額に汗を浮かべると2、3歩後ろに下がる。 足元に風が渦巻き、髪を靡かせた。

「逃げられないなら、撒き散らすしか無い」


叩きつけるような強風が吹き出した。 その風に目の前の”壁”は吹き飛ばされる。完全に姿が居なくなるのを確認してから小さく息を吐いた。再び歩を進めようとしたその時、不意に視界に強い光を放つ”何か”が写った。 それはヘルムの視力を一時的に奪った。


辺りは真っ暗になり、何も見えない。
カシャン、と何かが嵌ったような音が聞こえると同時に視力が回復し始め、明るくなってくる。


瞳に映った人影に目を見開いた。


「……ッ?!」



言葉を発する間も無く、強い力が身体に叩き込まれ静かにその場に倒れた。
歪んだ視界のなかに映ったのは、手枷のようにも見えるシンプルなデザインのブレスレットだった。




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