7


話がしたい。
そう言われて真琴とリノはクレスの帰りを待った。陽はだいぶ前に落ち辺りは少し冷え込んできた。

眠気が襲って来そうな頃に部屋の扉がノックされる。静かな部屋に響いたそれは目を覚まさせ、オートロックな為に内側から扉を開けた。扉の先にはきっと急いで帰ってきたのだろう、肩を上下に小さく動かしながら呼吸をするクレスが居た。


「ごめ、ん、こんな…遅くなるとか、予定より処理が長引いて…」
「私たちは大丈夫だけど、疲れてるんじゃ…」
「今話しておかないと、多分、時間取れないからさ…」


クレスは視線を僅かに逸らしながらぼそりと呟く。


「リノ、お前は”魔導師”の事どこまで知ってる?」
「教えてもらった限り…だと、昔はたくさんいた一族だったけど急に追放?されたとか…ぐらいしか聞かされてないかな」
「まぁ…大体は間違ってないんだけどそこに辿り着くまでを話しておいた方がいいよな」



リノの話を小さく頷きながら聞く。
クレスは少しの間を開け、軽く一息吐いてから言葉を紡ぎ始めた。



”魔導師”と言う存在は半ば隠された存在であった。
彼ら一族の過去は簡単な説明で済まされる事が大半でありその結果に至るまでを知らない。かつては王家に仕えていた一族だった彼らは、その時代の王に『忠実な家臣が欲しい』と言う話を聞かされていた。彼らの一族は仕えてはいたが政治的云々に関わるのではなく今の騎士団のような軍事的な役割を担っていた。元より魔法との対応力が高かった為に魔法には長けている。そんな彼らが生み出した魔法が『人を操る魔法』であった。


「ーーそれが、”魔導師”にしか使えない魔法の始まりだった」
「始まりって事はこれからまた変わるって事なの?」
「間も無く今みたいに”魔法に掛けられている事”が分からないぐらいまでに進化した。必要な時だけに発動し、それ以外の時は普通…みたいな感じだな……ーーだけど結果としてそれが一族の滅亡危機を招く事になったんだ」


王が告げた一言を叶えようと必死になった彼らは事実上として『忠実な家臣』を作る事に成功した。これを王は喜び彼らを軍事的な役割の中で更に高い地位に置く事になる。

比較的高い地位の者に割り振られる仕事は『罪を犯した者の管理』であった。これは信用出来る者にのみ任される仕事であった故に、王から絶大な信頼を受けていた彼らはそこの管理を任される事になった。


そしてその頃と同じ頃合い。
進化を続けた『人を操る魔法』の代償がじわりじわりと身体を蝕み始める。

決して消えない謎の飢えに彼らは苦しんだ。

原因がわからない。
何をすれば収まるのか。
方法もわからない。

目の前に居るのは鉄格子の中に居る『罪を犯した者達』。
社会に仇を成した『汚物』。
そんな者達の管理を任されたのは『自分達』。



『管理』を任されたと言うことは『何をやっても自分達の管理上での事』になるのではないのだろうか。


そう思ってしまったのが始まりで、自らの身を滅ぼす事となる。
一度手を下してしまったが為に、『飢え』をなくす方法を見つけてしまった。『人』の血を欲し、『人』の血で生を繋いだ。

もはや人ではない『なにか』に彼らはなってしまったのである。



そしてそれを長い間隠す事は不可能で間も無くその行為は王に見つかり、彼ら魔導師は国外追放だけに留まらず、僅かでもその血を持った者はほぼ全員処刑されてしまったのであった。


「ほぼ、全員が…?」
「数名だけ生き残ったらしいな、そうじゃなきゃアレルが魔導師の血族じゃなくなるだろうし」
「だけど、王様の為にそんな魔法使ってたのに、そんな…」


リノは目を伏せながらポツリと呟く。そこから先の言葉が紡がれることは無く、僅かな沈黙がその空間を包んだ。



「ーーー王様なんて、そんなモンなんだよ」
「え?」
「…….、なんでもない。続き話すから」



クレスの言葉に真琴は少しだけ表情を曇らせ聞き返すと、何事もなかったかのようにクレスは再び言葉を紡ぎ始めた。



「その、唯一生き残った魔導師の一人が、魔導師の当主になった。それは代々自分の血を持つ男子の体を転々と移り変えたーーー」




ーーーーー”エミハルト”である。





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