prologue
『僕を殺せ』
その言葉を聞いた途端に、脳裏には懐かしい記憶が蘇った。二人が騎士団への入団が決まり、早くも高い地位に着くだろうと誰もが期待の眼差しを向けていた。
入団は明日。
周りの期待から逃げるように逃げ出した場所で二人は静かに約束をした。
「周りの目がすごいね…、期待しかされてないみたいで」
「入団試験もかなり成績良かったらしいからな、俺達自身に結果は知らされてないけど話聞く限りだと俺ら主席だっけ」
「らしいよ?失敗したら批判来そうだなー…」
アレルは苦笑を浮かべながらそう呟くと、クレスも追って苦笑を浮かべる。
心地いい風が吹いた。
髪が風に揺れる。
「ーーーねぇ、クレス」
「?」
「約束、して欲しい事があるんだ」
「なんだよ、急に」
あまりにも真剣な顔つきで目を伏せたまま呟くアレルの姿を、その時はまだ特に何も考えずに、ただ急に何を言い出すのかと考えていた。
「もし僕がーーーー」
「もし僕が、”僕じゃない誰か”になってしまったら、その時は、君が僕を殺してね…?」
その時の言葉はきっと、”今”を指しているのだろうと、痛い程に痛感した。
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