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痛みが来ない。
苦しまずに死んだからだろうか。
それでも刃を握った手の痛みは分かる。


閉じた瞳をゆっくりと開けた。
クレスの頬に、一雫、零れ落ちた。

振り下ろされた刃はクレスを傷付けないギリギリの場所ーーーコンクリートの床にぶつかっていた。1mmでもずれていれば動脈を切っていたかもしれないような距離だ。

サーベルを握っていた手は小刻みに震え、音を立てていた。


「ーーーーーー…せ、るかよ…」
「……!」


アイスブルーの瞳でも、冷たい目をしてもいない。
”いつもの”青緑の綺麗な色をした瞳を捉えていた。
クレスの頬に零れ落ちたのは”彼”の涙だろう。


「あんたなんかに…、”僕”の身体で好き勝手やられてたまるか…!!」
「アレル…!」


”アレル”はぎこちない動きでサーベルを自分のそばから離させた。そして苦しそうな呼吸のまま、僅かに笑って見せる。


「 ごめ、ん…、ありがとう…」



”アレル”としての意識かが戻ってきたとは言え、頬の印は消えていない。時折目の色もアイスブルーに戻っているようにも思えた。

アレルは小さく笑うと、聞こえないような声でつぶやく。


「最高の、”罰”だね…」
「?」
「”嘘つき”には最高の、代償じゃないか…」


気付いた時には零れ落ちそうな程に溜めていた涙が零れ落ちていた。アレルは涙を零しながらクレスのジャケットを握り締め、静かな声で叫んだ。



「僕を、殺して」







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