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痛みを感じて間も無く、自分の背中に電気を帯びた鞭のような物が当たったのだということを理解した。そして瞬時に思ったのは苦痛に呻くよりも、次にもう一度同じ攻撃が来るのではないだろうかという予想であった。似たような魔法を”彼”が使う姿を前に見たことがあった。
そこから咄嗟に答えを出すと、自分の周りに結界を貼る。
案の定予想通り、霧を裂いて鞭は姿を現し、結界をガラスのように破った所で消えた。

だが、一時的に攻撃を凌いだとはいえ、クレスが窮地へと立たされそうになっているのは変わらなかった。

先ほど感じた背筋がぞっと凍るような感覚。
風圧のように押し寄せたマナ。
”魔導師”としての本性を現せてしまったような気がしていた。


コンクリートの床を歩く革靴の音が静かに響き渡る。


「ーー”相変わらず甘いね、クレスは”」
「…っ!!」


”エミハルト”が浮かべていた笑みは、口調は、記憶の中の”アレル”と完全に一致する。彼が目の前でうっすらと笑う姿は”アレルが戻ってきた”のではないかと、錯覚するようだった。

転がったサーベルを拾い上げると、 エミハルトは地面を蹴り上げた。それを確認すると、クレスもサーベルを構える。鋭い金属音が響いた。


「記憶にあった通り、お前は”優しい”のだな」
「……」
「仲間を殺される姿も、誰かが死ぬ姿も、お前は見たくないのだろう?」
「当たり前の事聞いてんじゃねぇよ…、それを”優しい”って言うなら大間違いだな」
「そうでもないだろう?」
「……?」


少しの間を置いて、エミハルトは静かに言い放った。


「”アーネスト”と言う青年を殺したのは私だ、と言えばお前はどうする?」


吐き出された言葉に、一旦思考が止まった。そして間も無くして湧き上がってくるのは、”エミハルト”に対する怒りだった。
握り締めたサーベルが小刻みに揺れる。


「その姿で…」
「?」
「”アレル”の姿で、汚え事やってんじゃねぇよ!!」



叫んだと同時にクレスはサーベルを何度も振り下ろした。間髪入れずに繰り返した為か、エミハルトは次第に後ろに押されていく。屡々繰り出された反撃を特に気にする事もない。所々に傷を作っていった。


「”怒り”か…美しい感情だな…。あぁ、いい眼をしているじゃないか」


エミハルトは自分が押されているのにも関わらず、クレスの表情をみて笑った。
そしてまた、静かに言い放つ。


「だが同時に、繊細さを欠けさせるのを、忘れてはならぬぞ…?」


サーベルを振り下ろした瞬間、サーベルを握るクレスの手を掴んだ。ぐっ、と力を込めて引き寄せると後ろに投げるように捨てる。急な出来事にバランスを崩し、地面へ倒れるとエミハルトが振り下ろしたサーベルを間一髪で受け止める。刃の側面に手を当て、これ以上刃が迫ってこないようにとするものの、体勢が悪くうまく力が入っていない。暫くしてクレスの方のサーベルは剥ぎ取られ、軽い音を立てて地面を転がった。

エミハルトはクレスに跨るようにして膝をつくと、クレスの喉元に刃先を向ける。



「形勢逆転、と言う所か…?お前の優しさと怒りが裏目に出たようだなぁ…」


背中は床にぴったりとくっつき、上にはエミハルトが跨っている。

逃げ場はもうどこにもない。




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