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「 魔導師の当主…?お前は”アレル”じゃ…」
「そうだ、少なからずアレル”だった” 、だがそれは今となれば過去の話…今では器は”アレル”であったが中身は”エミハルト”だ」


クレスは言葉に詰まった。確かに口調はアレルではない。漂わせている雰囲気も全く違うもののように感じる。冷たい氷のような目はしっかりとクレスを捉え、嘗ての”アレル”のような温かさは微塵も残っていない。


「器を変えたばかりの所為か…」



エミハルトは軽く背伸びをしながらぼそりとそう呟く。

不意に視界からエミハルトが消えた。そして目の前に刃先が向いている事に数秒後に気が付く。咄嗟に握っていたサーベルを前に掲げ、刃を防ぐも弾いた際に頬に浅く切り傷を作る。距離を置くように地面を蹴り上げると、エミハルトは小さく笑った。



「割と動けるらしいな、記憶にあった通りだ…何驚いたような顔をしている?」
「……」
「あぁ、まだ信じていないのか…”アレル”は居ないと言う事を…すぐに理解出来ずとも良い」


再びエミハルトの姿が目の前から消える。クレスがサーベルを構えるのと同時にエミハルトが振り上げたサーベルを受け止めた。金属同士がぶつかり合う音が大きく響く。



「お前が理解するまで生きていればの話だ、丁度良い、お前を殺して、血の祝福の杯をしようか?今のお前では私を殺すことはおろか、斬る事すら出来ないだろう?」
「……っ、ふざけんなよ…!」


そう来なくてはな、と鼻で笑いつつエミハルトは言うと、お互いに地面を蹴り上げた。
繰り返される攻撃を防ぐだけで、クレスは一行に反撃をするそぶりを見せない。それを特に気にする事もなくサーベルと魔法を駆使した攻撃を繰り返した。

瞬間的に距離を詰める方法は、どうやら自分に掛かる重力を半減させ、身体を風で飛ばしているらしい。数回攻撃を受けているうちにクレスは理解していた。だが自分の記憶が正しければ”普通なら”重力を操作する魔法はそう簡単には使えない筈だった。

今まで”彼”がその魔法を使った所は見たことがない。

正面から刃を受け止めた際に顔が近付く。



「ーー腑に落ちん、と言いたそうな顔をしているな」
「当たり前な事言うなよ…俺が知ってる”アレル”は重力操作の魔法なんて使った事無いからな…!」
「それはただ単にあいつが自分の身体に”封”をし続けたからだろう、自分が魔導師である事を周りに悟られぬように…お前たちに嘘をついていたのだ」


エミハルトの伸ばした手の先に小さく魔法陣が出来る。赤く輝きを放てば目の前で爆ぜた。咄嗟に出した結界で直撃は免れたもののその結界は脆く崩れ、身体は反動で吹き飛んだ。鉄の骨組みに強く背中を打ち付けると、激しく咳き込む。

歪んだ視界に映る”エミハルト”を睨むように見つめた。


「あぁ…どこかで見たことがあると思えばメーヌに居たあの騎士か…」
「…!?」


エミハルトの言葉に耳を疑った。
一方エミハルトは喉を鳴らして笑っている。


「どう言う、意味だよ…」
「言葉通りの意味だ、お前は私と以前出会っている…前の身体の時であろう。 あと、”アレル”の記憶に残っていた少年もお前か…」
「記憶に…”残っていた”…?」
「私は移し替えた器の記憶は全て見ている、過去に何があったのかも全て分かっているのだ…」


エミハルトの発言に脈拍がひどく早まった。



「イーリウムを壊滅させたのは私だ、”アレル”はそれを知っていて隠していたようだがな…」
「…っ!?」


目の前にいる人物は”アレル”ではない。
”エミハルト”で”魔導師”で。
ましてや自分の生まれ故郷を、大切な人を殺した。それを知っていながらも隠した。

漸く自分が探していた物を見つけたのに、悲しみと憎しみがぐちゃぐちゃに混ざり合った。


「あぁ、良い顔をしているじゃないか…!私に対する、または”アレル”に対する憎しみか…?」
「黙れ…」
「”怒り”と言うのは最も美しいと私は思う…あぁ、お前にもうひとつ伝えなければならない」
「……?」


よろめきながらクレスが立ち上がるのと同時に、エミハルトは言葉を吐き捨てた。



「あの”娘”の血は、今だに同等の物がない程に美味であったぞ…?」



自我の糸がまるでぷつり、と音を立てて切れたように、クレスはサーベルを強く握り締め地面を蹴った。



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