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エミハルトは何の言葉も発さない、まさに人形のように黙ったままのアレルの前に手を開き翳した。

動かないようにと押さえつけていた人も下がったが、そうなっても反抗する気配は見せない。

ぼんやりと浮かんでいた魔法陣が瞬時に輝きを増す。巻き起こった風で髪が揺れていた。


「絶望は反抗する心を砕く…、予定通りといった所か…」
「……」


魔法陣の発する光を帆照らしているが、その光を写す瞳に光はない。


「僕が、消えれば…、他の人は、助か、る…?」
「そうだな、きっと…」



静かに問い掛けられた言葉は空間に消えていく。その一方で光は一層に増して行く。器として差し出す事を認めたのか、抵抗する気力も無いのか。徐々に”自分”としてのタイムリミットは近づいて行く。


顔の前に翳された手の隙間から見えたのは、笑っているエミハルトの姿。

最後の最後に嫌になる。



「Alles Gute zum Geburtstag.」



「NachtーーーーAllele.」


目を晦ますような眩しい光が、その空間を包んだ。





「っ、何だよ今の…!」


ちょうどそのタイミングで建物の前にたどり着いたクレスは僅かに眩んだ目を擦りながら警戒していた。
ただ強い光が発せられただけではあったが、渦を巻く不安は増して行く一方であった。

建物に入る前に早々とサーベルを引き抜く。重く錆びた扉をゆっくりとあけ、警戒しつつも前に進んだ。一番奥の広間に繋がる扉に辿り着くまでにこれといった敵の姿は無かった。人の気配すら感じない。


「……?」


違和感を覚えながらも、目の前の扉をゆっくりと開いた。錆びた扉が軋み、音を発する。


開いたと同時に僅かに光を帯びた砂のような物が溢れ出してきた。その所為で景色は濁って見える。 クレスは手を払うと瞬間的に発した風の魔法で砂は外側にはけた。

クレスの立つ位置の真っ正面に、サーベルを握ったまま立っている一人の人物がいた。身体は横を向いたまま、天を仰いでいる。


頭の中の人物と全てが重なる。
顔は陰って見えない。



「あぁ、来たのか…」



アイスブルーの瞳がクレスを捉えた。口元には弧が描かれていた。
左の額から真っ直ぐと首にかけて刻まれている、鳥の片翼を模したような印が目に焼き付いた。


見た目はそのままなのに、雰囲気が違う。



「アレル…?」



”アレル”とクレスが呼んだ人物は小さく鼻で笑うと、身体を正面に向けた。



「私は”エミハルト”、お前達の敵に当たるだろう”魔導師”の当主だ」



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