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「…、は…?」


一瞬問いかけられた言葉の意味が分からず、呆然とした。


「お前は勘違いをしているようだが、私の元を逃げ出すのも、騎士団に入り”魔導師”として成長するのも、全て計画の内であったと言っているのだ」


突きつけられた言葉に声を失ったように黙り込んだ。
自分が選んだものではないと、 全て仕組まれていたものだと言う。


否定した。
心の中で必死に否定した。
全てが仕組まれていたなんて信じたくなかった。

「お前はあの日…初めて見た”現実”を否定し私の元から逃げ出す事を計画しただろう…”イーリウム”と言ったか…?」
「そうだ、僕はあの日初めて魔導師の”狩り”を見た…あんな事する必要なんて…!」


街の至る所が赤に染まって行く様を見ていた。噎せ返るような臭いが充満していたあの街。楽しむように血を啜る残った魔導師達を見て、いつか自分もあんな風になってしまうのかと恐れた。そうならないようにと単純に思いついたのは逃亡。身を隠し、魔導師としての力を使わなければ、”化け物”にはならないだろうと思ったのだった。


「仕方があるまい、私達魔導師は、力を得た代わりに必要なものが人の血であった。そんな種族なのだから。イーリウムなんて国の中のゴミと呼ばれるような…」
「っ、黙れよ!!ゴミなんて呼ばれる人は居ない、寧ろ僕達こそ必要のない人だ…イーリウムには、あの場所には…っ」


つい最近まで知り得なかった事ではあったが、そこには嘗て今では自分の良く知る人物が住んでいたのだ。あの場所に居たくなくて逃げ出したあの時僅かに見えた人影は、きっと”彼”に違いないだろう。



「なぜお前が怒るのか分からんが、まぁ良いか。そしてそのまま私達の住む場所へ帰ろうとしたのだが…、ある人物が私に交渉を持ちかけたのだ」


すっ、と前髪を掴み上げていた手を離した。
痛みから解放されたのと脱力感で僅かにまた頭が下がる。見上げるような形でエミハルトを見続けた。


「”自分は騎士団の中でも上位にいる者だ。貴方の次期器となる人物は逃げるだろう。逃げるのは勿体無い、決して魔導師の生き残りがいることは告げない代わりに、彼を騎士団で預からせて貰えないだろうか”と…」


エミハルトは懐かしさに浸るように目を伏せた。

騎士団。
その単語を聞いた途端に、アレルの心臓は酷く低く鳴り響いた。
その頃合いで、イーリウムが壊滅したあの場所に向かった人物は限られている。



「勿論疑いはしたが…私はあの人物の願いに共感してね…、約束を交わした」
「約、束…?」


エミハルトは薄っすらと笑みを浮かべたまま、自らの手をアレルの頬を伝わせて行き、顎先を掴んだ。


「時期が来るまでに最高の状態の器にしておくこと、そして必ず返すと言う約束だ」
「…!?」
「それを快く引き受けたと思えば、”今の王族を倒し、王になるのは魔導師しか居ない。貴方を王の座に押し上げたい”と…」



耳元で囁くように告げた後、喉を鳴らして笑っていた。


アレルは声を震わせて、静かに問いかけた。


「その、あんたと約束を交わしたって言う騎士の、名前、は…?」



「はっきりとは覚えておらぬが…、”クロスビー”、と…言っていたぞ」


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