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一番の痛手だった。まだ一般人ならば自身の封を解放した今、”リング”の脅威に曝される事も殆ど無い。だがアーネストは違う。少なからず騎士団に所属し、剣術魔術体術、全ての教養を得た存在であり、共に同じ場所で育ち戦った。お互いによく知っているからこそアレルの戦い方も生まれる隙も知っている。

それはアレルがアーネストに対しても同じ事ではあるが、アーネストはそれをほぼ見せないようにサーベルを振るった。

幾ら名前を呼んでも本人の反応は無い。それを見てただ笑っているエミハルトが実に腹立たしい。

アレルはアーネストが振り下ろしたサーベルをどうにか避けつつ距離を置く機会を見計らっていた。エミハルトさえ倒してしまえば、アーネストを傷付ける必要も無い。


「っ、アーネスト…頼む、退いて…!」



容赦のない攻撃にアレルは押されていた。ましてや自分の生まれる隙をついてくる所為で所々に浅い切り傷を作って行った。忌々しげに小さく舌を打つと、わざと刃を受けた。右腕に深々と入った刃が鋭い痛みを発する。苦痛に表情を歪めつつもアーネストの懐に入り込むと、手を開いた。瞬時に緑色の光を発する魔法陣が浮かぶと力強い風がアーネストに叩き込まれ、爆風とともに姿が飛んだ。巻き上がった砂塵に紛れてエミハルトの元へと駆け出す。手を伝って血が地面に滴り落ちるのを気にしている余裕も無かった。今じゃなければエミハルトは討てない。


煙の中に影が揺らめく。影に向かってサーベルを振り下ろした。その際に発した風で履けると姿が次第に見えてくる。アレルの刃を受けていたのはエミハルトではなく、アーネストであった。あの短い間に戻ってエミハルトの盾のように前に立ち、アレルの刃を受けたのだ。大きな金属音が響くのと同時に腕に鋭い痛みが電気が走るように発し、アレルの握っていたサーベルが弾き飛んだ。完全過ぎるほどに生まれた隙に強烈な風を叩き込んだ。

凄まじい勢いで吹き飛んだアレルは鉄の柱に背中を強く打ち付け息が詰まる。

そのまま地面に膝を着くと激しく咳き込んだ。



「あまり傷を付けるでない、アーネスト。いずれ私の身体となるものなのだからな…」


アーネストは小さく頷くとゆっくりと歩を進めた。アレルはそれに気付くとよろめきながらも立ち上がり距離を置くように走った。滴り落ちる血が地面に模様を描いていく。吹き飛んだサーベルを探しながらアーネストが繰り出す攻撃を避けていた。

ある一箇所に足を踏み入れた途端にずっしりとした重さが掛かった。重圧に負け身体が思うように動かせず両膝を着いた。その一瞬の間に地面には魔法陣が刻まれていた。その魔法陣は以前見たことのあるものーーーー自分とクレスを捕らえていたあの魔法陣と同じであった。アレルの身体は自分の力ではぴくりとも動かないのに対して、何処からか姿を見せた刻印者がアレルの身体を押さえ、腕を背中に回すようにして両サイドで掴んだ。

それを見届けたアーネストは静かにサーベルを鞘に収めた。


「予想以上に手こずったようだな…」


ゆっくりと近付いてきたエミハルトは顔を伏せ肩で呼吸をするアレルを気にする事もなく、前髪を掴んで半ば無理矢理視線を合わせた。


「っ、いっ…!」
「ーーーだが大体予定通りだったから良いか…」


アレルはエミハルトを睨む。右腕は刺さった場所が悪かったのだろうか、鈍痛だけは感じるものの指先すらまともには動かない。利き手ではないものの、片手を代償にしたのは間違いだったと後悔するのと同時に陣の中から逃げ出すチャンスを伺うが逃げ道は見当たらない。
そんな状態のアレルをエミハルトは笑う。



「まだ反抗する気はあるようだな」
「当たり前だろ…、僕は、あんたに…」
「身体を渡すわけにはいかない、と?」


小さく鼻で笑うと、より強く前髪を掴み上げた。


「この日を迎える迄の全てが、”お前が”選んだものだと思っているのか?」






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