3


聞き慣れた名前に、驚きを見せるとともに違う人物で有って欲しいと願った。恐る恐る後ろに視線を向ける。

”アーネスト”。
そう呼ばれた人物は、やはり見覚えのある姿をしていた。ただ確実におかしいと言えるのは頬に刻まれた印である。


「そいつは以前王城を攻め落とそうとした時に私の元へ逃げてきた奴を尾行してきていてな…、私の人形にしようとしたが手こずってしまった…追って来なければ良かったものを…」


エミハルトは嘲笑うように言い放つ。
アーネストは表情も変えず、光を宿さない虚ろな瞳にアレルを写していた。
変わり果てた姿に動揺を隠せないアレルだが、それよりもエミハルトに対する怒りだけが募って行く。


「強めに掛けているから早々元に戻る事はあるまい…お前の為に残しておいた大切な”人形”だ…」


自分の中の何が切れるような感覚だった。
気付けば既に身体は動いていて、喉元に突きつけていたサーベルはエミハルトの手を払って一旦手元に戻し、一刀浴びせるつもりで振り上げた。


「っ、エミハルト!!!」



振り下ろした刃はエミハルトに触れる事無く、アーネストが握っていたサーベルが受け止めていた。


「やれ、アーネスト、”遂行しやすい”ように」


エミハルトの言葉を聞くなり、アーネストは地面を蹴り上げた。





一方同時刻、リードルフ城内。
真琴は不思議な夢を見て目が覚め、今だにあの感覚が離れないでいた。誰だか分からないが”誰か”が自分に向かって手を振り、何かを言っている。口が動いているのは分かっているが、ノイズが入ったように騒がしく、何と言っているのかは分からない。

背を向けて去って行こうとする姿を追い掛けようとした所で目が覚めたのだ。

真琴は夢の中で伸ばした手を、右手を見つめた。
湧き上がって来るのは不安と胸騒ぎだ。何かが起こるんじゃないかという不安が真琴を襲った。

その原因は、マーティスに会った時に口頭で伝えられた”アレルとクレスは不在だ”と言う言葉もあるかもしれない。

昨日のアレルの様子を思い出せば、何かおかしかったような気もする。それと同時に、果てしなく顔の距離が近付いた時を思い出せば、頬が熱くなるような感覚と脈拍が早くなるような感覚が襲う。

そんな真琴を他所にリノはオレンジ色のラインが入った白いエプロンを取り出していた。


「真琴!今日が本番だからねー、気合入れて今までの成果出そう!」
「…うん」


嬉しそうに、楽しそうに笑うリノを見て、思わず笑みを浮かべると小さく頷きながらそう言い、ソファにかけておいたリノと色違いのエプロンを取ると、二人で部屋を後にした。





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