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”魔導師”。
ずっと昔に生きていた一族だが、魔導師の一族は根絶やしにされた。原因も理由も詳細は不明である。一つの理由として考えられるのはその強大な”マナ”の許容量と、それの対価として人を食らうと言う魔導師にしか持ち得ない性能かもしれない。”マナ”の許容量が多いが故に身体の疲労が後々に塊となって押し寄せ、それを癒す事の出来るのが人の血であった。

また、人を操る能力を持ち合わせており、操られた物は普段はいつも通りに生活をしているものの、発動されれば顔に印が浮き上がり物言わぬ人形となる。その魔法を掛けた張本人を殺さない限り永遠に人形のままとなってしまうーーー。



アレルが報告書として騎士団に伝えたのはここまでであったが、実際は終わっていない。”魔導師”は初代魔導師が代々の党首になるべき存在の身体を移し替えて存在している。嘗て滅亡の危機を迎えたものの、生き残りがいなかったわけではなかった。生き残ったのは当時は別の身体に移し替えていた”エミハルト”と、残り数名程であった。その数名のうちの一人が、アレルの実の父親で”エミハルト”の息子、”アルド=ヘルム”であった。

そして今は”アルド=ヘルム”の身体にその魂を宿した”エミハルト”はアレルの目の前にいる。
変わらず口元に弧を描きながら、座っていた。


「ーー父さんは、”魔導師”を嫌っていた、 いなくなるべきだと言っていた。なのに、何で…」
「ヘルムは血を濃く引く唯一器になるべき存在であったのだ、私に身体を受け渡す事ぐらい覚悟はしていたはずだぞ?」
「覚悟は、していたかもしれない、だけど…父さんは僕と、母さんと…静かに生きていたのに…!」



悲痛な声は空間に静かに消えて行った。怒りと悲しみと、悔しさ。色々な感情が波のように押し寄せ、胸の中で渦を巻く。紡ぐ言葉が思いつかずに声を詰まらせた。


「なら、何故ここに来たのだ?そろそろ”その時”である事ぐらいお前だって分かっているはずだろう」
「分かってるよ…この間挨拶されちゃったからね」


先日、王が下した命令によりクーデターが起きたあの日。アレルが対峙したあの青年が耳元で囁いた言葉。


「”もうすぐ始まる”…なんて、そんな言葉聞かされたら探さざるを得ないだろ…あんたが望んでる事も知ってるんだから」

アレルは握っていたサーベルをエミハルトに向けた。自分に残された時間は、もう少ない。それは自身が一番分かってる。だからこそ、決着をつけなければいけない。自身に掛けられた疑いは自分で晴らす。


「僕は、あんたを…エミハルトを殺す、”魔導師”なんて存在は…あっちゃいけないんだ…!」


はっきりと、そう言い切った途端にアレル周りが弾けるように煌き、小さな光が宙を舞った。痛みも苦しみも感じない。感じるといえば、懐かしさだろうか。


自分が魔導師の唯一の血筋だと言う事を悟られないよう、許容量と変換量に封をしたあの日以来の感覚。彼の許容量と変換量の多さは魔導師であったからだけでなく、母親の血を引いているからでもあった。

湧き出るような魔力に、エミハルトは指を鳴らした。その音と共にどこからかぞろぞろと姿を現したのは、頬に歪な印を刻んだ人々。


「なら、一つ問う。”魔導師”の存在を否定するのならお前はどうするつもりだ?お前も魔導師の一人ではないか。想い人に、なにも告げないつもりか?」






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