8


まだ夜が明け切らない頃。窓から見える空は深い藍色。アレルは物音を立てないようにベッドから降りると、早々と身支度を始めた。

身支度をしている最中、頭の中には色んな記憶がめまぐるしく回る。それに思わず小さく笑った。

サーベルを腰に掛けて、ドアノブに手を掛ける。
半分程開けて僅かに後ろに振り向く。


「ーーAuf Wiedersehen」


その声は誰にも届く事なく空間に消えて行った。誰にも見つからないように城内を出て、門付近の馬小屋まで足を運んだ。案の定見張りの隊員は壁に寄り掛かって眠っていた。安心したように小さく安堵の息を吐き出すと、一番端の小屋に入っていた馬を外に出す。不意に後ろで草が踏まれて擦れるような音が鳴った。瞬時にその音がする方に振り返ると見慣れた姿がそこにあった。



「…マーティス…」
「こんな夜中に何やってんだよ、出掛けるのか?」



何も知らないマーティスは驚きを見せながらも笑みを浮かべて歩み寄ってくる。だがアレルに関しては笑みを見せる余裕もないように焦りを露わにしていた。


「アレル?」


呆然としているアレルを覗き込むようにマーティスは見つめた。聞き取れるかどうかも分からないぐらいの小さな声で呟く。



「……ごめん」


開いた掌の先に瞬間的に魔法陣が浮かび上がると、マーティスは足取りが覚束なくなりアレルの方に倒れた。アレルはマーティスを抱きとめると邪魔にならないようにと壁の端に寄り掛からせる。


「出来れば見つかりたくなかったから…」


マーティスの前に屈み、彼の額に指を向ける。指先が淡く光り、囁くように言葉を紡いだ。


「もし目が覚めてもこれを覚えていたら…伝えて欲しいんだ…」


言葉を紡ぎ終えると静かに立ち上がり、馬の元へと寄って行き乗り込んだ。


「ーーー行かなきゃ」


小さな声で決意のような言葉を口にすると、城を去って行った。



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