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「このままになってしまいますが…私がこんな行動に出た経緯についてお話しましょうか」


痛みに乱れた呼吸が、そんな呼吸をしている自分自身も鬱陶しく感じた。必死に意識を保とうとしつも逃げ出すチャンスを伺うが、上に覆い被さるようにされてしまった事にプラスし上手く力が入らない。


「先ほど飲んだ物には、私が処方した薬を混ぜておきました…一応薬学と魔法学を特別学んでいましたから…」


耳に掛かっていた長い髪が解け落ち、銀色に淡く光を帯びてアレルの頬を伝って落ちる。それすらも敏感に感じ取ったのか、アレルは肩を僅かに揺らした。


「今回の薬は、ある一定の条件でのみ反応を見せます」


左胸を抑えるアレルの手を引き剥がすと頭の上で一つに纏めた。襟元から度々小さな蝶の形をした痣が姿を見せる。



「エイミリー様が亡くなったあの日、貴方は結界を貼っていた…ですが貴方が発した魔力が大きな塊となり圧力として波打つように発した、これが何だか分かっていますか?」
「……」


ヴァレンスは口元に小さく弧を描いた。



「魔力を塊のようにし、圧力をかける魔法というのはそれ相応の”許容量”がなければ出来ません…、入隊時、貴方の許容量は”人並みより少し多い”ぐらいと聞いています」


どっ、と音を立てて心臓が低く鳴った。それと同時に痛みも増していく。


「そう聞いていた筈でしたが何故出来たのか…私は一つ仮定を立てました」
「仮、定…?」


細く長い指が首筋をなぞるように伝い、左胸を指差した。


「自身の身体に”封”に近い物をして”人並み”に許容量を抑えている。だが緊急事態が訪れると”封”は解け一気に集めてしまったマナが塊となって放出される、と言う事です」


アレル自身、自分が圧を発してしまった原因も分かっていた。だからこそ、自分が今抵抗する術が無い状態ながらもその考察力には感心した。 そしてぞっとした。


「だから、どう…するって…言うんですか…?」
「はっきりと言ってしまえば…」


顔をアレルの耳元に近付けると、息が混じったような声で静かに、そして低い声で囁いた。


「ーー貴方が我々の脅威となる存在”そのもの”なのではないでしょうか」
「……っ!?」


血の気が引いて行くのがはっきりと分かった。どこまで頭の回転が速いのだろうと思うと同時に目の前の人物に対する恐怖が大きな波となって押し寄せる。


ヴァレンスの片手がアレルのシャツの襟元に手を掛けた。何が起こるかぐらい嫌でも分かった。


「あの薬を飲んで反応を見せなければ私の憶測が間違っていたのだと思えたのですが…どうやら、満更でもない感じですよね…?」
「っ、や、嫌だ、離せ…!!」


己の両手を拘束する片手を振り解こうと必死に力を込める。だが変わらず力が上手く伝わらずただ痛みと息苦しさだけが増す一方だった。その一方では着々とシャツの釦が外されていく。

見ていたくなくて目を逸らして瞑った。



その瞬間、静かになった部屋に3回ほどノック音が響き渡った。扉の先から篭った声が聞こえる。


「筆頭!国王様がお呼びです、いらっしゃいますかー?」


二人の視線が一斉に扉へと向かった。それから少しの間ノック音が続く。それに気を取られたのか僅かに手の力が緩んだ。手の力が緩んだのを察知するとどうにか振り解き、ベルトケースから拳銃を取り出した。震えた手でヴァレンスの額に銃口を向ける。 暫くの間無言で視線だけが行き交った。

ヴァレンスは静かにアレルの上から退き、アレルはそれを押しのけるようにして立ち上がると、若干よろめくも部屋を飛び出した。


扉の先で待っていた隊員と肩がぶつかる。アレルにはそれを謝っている余裕も無かった。


「ーーー今の、アレル、ですか…?」
「少し、虐め過ぎたかもしれませんね…」
「え?」
「何でもありません、国王が私を?」
「はい、急用だと…」


ヴァレンスは直ぐにいつもの様子へと戻ると、部屋に上着を取りに一旦戻り、国王の元へと向かうのであった。







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