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「ーーーー何の用だ、 こんな所に呼び出して」


人の声が遠い。僅かに聞こえてはくるものの、それがどんな会話を成しているのまでは識別出来ない。記憶の中で重なっているその場所は、ラスの神経を逆撫でするようだった。
そんなラスの前に立つのは、厳しい表情を浮かべたままのエルネットだ。彼は偶然にも居合わせたラスを連れ去るように呼び出すと、この場所へと連れて行った。まるで人目を避けるような感じであった。

エルネットは伏せた目を開けると、静かに口を開いた。


「覚えてるわよね?3年前にあった事」
「だから何だよ、お前に謝れって?」
「そう言う事じゃないわ」


じゃあ何、とラスは続けて言う。苛立っているのがひしひしと伝わってくる。その様子に僅かに怯んだ様子を見せるも、エルネットは口調も表情も変える事はなかった。


「ーーー本当に、”あれ”は貴方がした事なの?」



エルネットのその言葉を聞くなりラスは小さく溜息を吐き出した。顔は伏せているものの、鋭い視線がエルネットを捉えていた。



「疑ってんなら何言っても無駄だろ、俺がクロスビーを殺したってお前自身がそう信じ切ってるなら」



”あれ”が指している事。
それは3年前にクロスビーが死を迎えた事だ。クロスビーが倒れていた場所に”偶々”落ちていたのは”彼”のサーベルだった。”彼”が指している人物は、嘗て騎士団に所属し、エルネット等と同じ特別部隊に所属していたーーー”ラス”であった。


絶対的な根拠はなかった。
だが彼は罪に問われ、持っていた地位は全て剥奪の上にアメディウスを追い出される事になった。それから3年近く姿を見せなかった彼だが”アリス”の候補者に選ばれたのが良いのか悪いのか、この国に戻ってくる事になってしまったのである。


「確かに、あたしは貴方を疑ってるけど…尋問に掛けられた時に何も貴方が言わないから、ずっと…」
「ーーー何を言っても無駄だって言ってんだよ、もう俺は関係ない、それで全部片付いたんだ」


エルネットの言葉を遮るようにはっきりとそう告げると、背を向けて歩き出した。
そんな彼を呼び止める術も理由ももうない。
はっきりと告げられた言葉で全てが片付いてしまっていた。


「じゃあ!じゃあ…、あの子に本当の事は告げないの?」
「ーーっ、あいつらと同じ事を聞くんだな…、告げた所で何になる?告げたら苦しむのは俺じゃない」


エルネットはラスの言葉に、声を失ったように黙り込んだ。そんなエルネットに僅かに視線を向けるとラスは何も言わずにその場を去った。






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