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アレルの単独行動が認められ、日時が経つのは早かった。通常勤務はやらなければいけないと言う約束上城内に居なくはないらしいのだが、巡り合う事はない。同室のクレスもアレルの姿を見ていないらしい。曰く、夜遅くに帰ってきて朝早くに出て行くような毎日を過ごしているようだ。そんなことをしていればいつか身体を壊すのは目に見えているのだが、アレルが休むことを望まない以上止める権利もなかった。だが真琴を含め全員が心配をしないわけにはいかず、度々クレスや隊員に聞くものの会うチャンスを得ない。


ある日、真琴とリノがケーキを誕生日用にと作る練習するといっていた。あの騒動が起きた日から時間があれば練習してきた。 お陰様で最初は黒炭の塊だったものが、ある程度見れるような状態になっていた。綺麗な赤の苺が生える。真琴は小さな箱に詰め少しでも何かになれば、と言う思いからアレルの部屋に向かった。

隊員の大体が今の時間帯は出払っているため、しん、と静まり返っていた。リノは作りすぎたマドレーヌを配るのだと言って出払っていた。

扉の前に立つとゆっくりと深呼吸をする。
出来ればいて欲しいと思っているものの、会えないんだろうなと言う気持ちのが大きい。

覚悟を決めて扉をゆっくりノックする。
静かな廊下にノック音が虚しく響き渡る。少しの間が発生した。
真琴は眉を下げて小さく笑うと、一歩二歩と後ろに下がる。その瞬間、中から走るような音がして勢いよく扉が開いた。


「っ、はい!」
「アレル…!」



ぽかん、と名前を呟いた。久々に見るアレルの姿に懐かしさを感じるのと共にどこか疲労が現れているように見えた。どうやらシャワーを浴びていたらしく髪からはぽたぽたと雫が垂れ落ち、羽織ったシャツのボタンが全部閉められたわけではな胸元が見えていた。



「あ、ごめんね、こんな格好で…」
「いや、私こそ変な時に来ちゃって…これ、リノの作ったから…よければ」


真琴は小さな箱を差し出すと、しどろもどろになりながらも簡単に説明をした。それじゃあ、と軽くお辞儀をして去ろうとするとアレルは真琴を呼び止める。



「良ければ、上がっていく?」
「え?」
「少し時間あるし…せっかくだからね」


アレルは優しい笑みを浮かべる。
真琴は少し戸惑いをみせるも、部屋に入った。

ソファに座るとマグカップを二つ持ってきて近くのテーブルに置いた。湯気が白く立ち込め、紅茶の匂いが広がる。

マグカップに口を付けつつ辺りに視線を回した。綺麗に片付いているのは確かだが、二つある机のうちの一つ、恐らくアレルの机の上にはたくさんの紙が重なっていた。



「気になった?」
「えっと…、少し」
「自分で望んでやってる事なんだけど、思ってたより辛いかなぁ…体力的に」
「何を調べてるの?」


真琴の問いかけにアレルの表情が一瞬陰った。その陰りを隠す訳でもなく、目を伏せたまま呟いた。


「ーーー”魔導師”の事」
「”魔導師”‥」



何と無くではあるが、話は聞いていた。
彼らを苦しめる”リング”を散布させている張本人。 半ば神のように崇められている存在。


「ーーー僕は、”魔導師”に両親を”殺された”んだ」



静かな声の裏には深い闇が聳えているように感じた。淡々と、はっきりといったその言葉の声色は彼らしくない。どこか冷たい瞳がただ一点を見つめていた。

たったその一言だけだったが、過去にどれだけの事があったのかが予想がつく。真琴が予想しているよりももっと凄いものだったかもしれない。


「あんなことをしておいて…、まだ…!僕は”魔導師”を許さない。”魔導師”なんて存在は、全部居なくなるべきなんだよ…」
「アレル…!」


真琴は咄嗟にアレルの手を握った。アレルの言葉が続く前に言葉を遮る。困ったような、不安を帯びた瞳がアレルに向けられた。

アレルは呆然と真琴を見つめた。暫くして我に返ったように笑みを浮かべる。


「ーーごめんね、変な話して」
「私は平気よ。でも、アレルがアレルじゃないみたいで…」
「…‥…」


アレルの髪が揺れた。真琴の肩に僅かに重さが掛かる。


「ーーー!?」
「少しだけ、このままで居させて」


優しい声が耳元で囁かれた。アレルが真琴に寄りかかって目を伏せている。長い睫毛が強調されている。真琴の顔の体温が一気に上昇していくような感じがして鼓動が上がった。触れている部分から心拍数が伝わってしまうんじゃないかと不安も感じる。


アレルの寝息が静かな部屋で一定のリズムで刻まれていた。




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