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「単独、行動ですか…?」


聞き返すように呟くと、アレルは小さく頷いた。ヴァレンスも今回のこの騒動で失うであろう戦力は予想がついている。死を迎えるわけではなくても、怪我人が多ければ治癒魔法があるとは言え、すぐに戦場に呼び込むのは気が引けた。出来ることなら極力避けたい。少しでも力になる者は居て欲しかった。だがその言葉を言わせないような真剣な眼差しがヴァレンスを捉えていた。


「無茶を言っているのは分かっています…、アーネストもまだ見つかっていないしこれが原因で戦力が大幅に下がる事も…!だけど、僕じゃなければ、”出来ない事”だから…」


アレルの言葉に目を伏せた。
許すか否か。
どちらを取るべきなのか、天秤が揺らぐ。


「単独行動をさせてもらえるなら、通常勤務の間でも構わない!休みも要らない…だから…!」
「ーーー分かり、ました」


暫く間をあけてから頷きながらそう告げる。
単独行動の条件として、自ら申し出た通常勤務の間で行う事、休みを犠牲とする事。そして調べた結果の報告書の提出と、”単独行動”とする以上責任は全て自己責任となり万が一の事があった時にすぐに手助けをする事が出来ない、という条件だった。
それを素直に受け止め、アレルは 単独行動を許可された。


一方クレス達はと言うと、首謀者を倒した事から囲っていた人達は若干慌てながら退散していった。さほど時間もかからずに、先ほどの事が嘘のように静かになる。

終わった開放感からか、疲れが一気に流れ込んできた。
ふっと力が抜けてその場に座り込むと、仰向けに倒れた。心臓の音が身体中に響き渡る。クレスの行動にエルネットは焦ったような表情を見せてサーベルを鞘に収める。


「ちょ、大丈夫!?」
「平気、…少し、休めば大丈夫…」


掌を掲げる。小刻みに震えていた。
その姿を見て、”治癒魔法”に頼ろうとする自分に恐怖を抱いた。そしてショックを受けた。


「ーーークレス?」
「なんか、怖いんだよ…」
「何が?」
「俺たちは”死なない限り”永遠に魔法で治されて、戦わされる。それを分かって入ったはずなのにな…今更、怖いと感じるようになったんだ…」


掲げた片手で顔を覆いながらぽつりとつぶやいた。エルネットは返す言葉を失ったらしく、静かに黙り込んでいた。
それから暫くしてクレスを抱き起こすと、無言のまま城へと戻っていった。

戻った先の城は怪我人で溢れかえっており騒がしい。隊員は勿論だが住民も多々見受けられる。やはりその中では特別部隊に所属している隊員の怪我は尋常ではなく、数人は危篤の状態に陥る程だった。危篤まではいかないものの、 アレル、クレスの怪我も酷く、よく立っていられたねと驚く人も少なくはない。
エルネットは帰ろうと思っていたらしいが、どうも怪我の状態が気になっていたらしく暫く留まる事になった。 そんな差中、リノの声が響き渡る。騒がしい空間の中でもはっきりと分かるリノの声色と、ハスキーな声色が聞こえていた。


「早く!良いから来なさいっ!!!」
「だから!大丈夫だって言ってんだよこの!」
「暴れんなって言ってんの!!!」


喧嘩のような会話だが、なぜか微笑ましさが感じられる。リノとラスがお互いに引っ張りあっている。治癒させようとするリノと、帰ろうとするラスの姿は妙に微笑ましい。

その姿に半ば和まされた人がいたものの、エルネットだけは驚きを現していた。ラスもまた、エルネットの姿を見るなり表情が変わる。


「あんた…”帰って”来てたの…!?」
「……帰る」



ラスが不意に力を抜いた所為でリノは後ろにひっくり返っていた。リノを気にしている余裕もないようにラスは素早く踵を返すと足早に姿を消した。


反逆者、千数百人。
騎士団隊員五百人弱。

騎士団はその内の一割近くを怪我による離隊、または死亡により失った。
首謀者は討ち取ったものの、国王に対する不満はより一層深まるばかりで、治安の悪化は国中に広まった。








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