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青年の言葉がぐるぐると脳内を駆け巡った。思い出さないようにと必死に隠してきた昔の光景が脳裏で蘇る。震えた声で青年に問いかけた。



「なに、お前、何を知って…」



言葉を言い切る前に、青年の口元が弧を描く。素早く伸びてきた手がアレルの首を捉えた。強い力が篭り、引き剥がそうにも引き剥がせない。呼吸がままならない状態の為に意識がぼんやりとしてくる。



『”私”の意志は、伝わったようだな』
「っ…!!」


”さて、話を続けようか”。
そう言うつもりだったのだろう。だがその言葉は言い切る事も発する事もなく、首に掛かっていた力がふっと抜け、激しく咳き込んだ。僅かに滲んだ瞳を前に向ける。青年は距離を置き、警戒心を剥き出しにしているのが分かる程にこちらを睨んでいた。

それを捉えて間も無く、視界の中で銀色の髪が揺れた。



「ーーーーーヴァレンス…!」
「遅くなってすみません、国王を説得しようと思ったのですが…」


ヴァレンスはアレルに手を差し出す。腕を引いて立ち上がらせると、地面に倒れていたサーベルを手渡す。



「色々と聞きたい事はありますが…、まずはこちらが先ですね」
「筆頭騎士、さんだっけ?まさかあんたまで出て来ちゃうなんてー、相当追い詰められた感じ?」
「ーーー相当、ですよ」


青年の視界からヴァレンスの姿が消える。瞬きをする時間も無かった、本当に一瞬。気が付いた時には青年の後ろに姿を現し、振りかかるサーベルを辛うじて避ける。避けた先にはアレルが待ち構えており、アレルが振ったサーベルの刃は腕に直撃した。


「っ…!!?」
「あぁ、そうでした。アレルを追ってきた半数の方々ですが…、ここに来るまでに全て気絶させて来ていますので…」



優しく、冷たい笑みが浮かんだ。
その笑顔が深く脳裏に焼き付いた。
そして気づいた時には自分の胸に、深々と刃が突き刺さっているのが分かった。刃先を赤い雫が伝い、地面に落ちる。


「ーーーー最後は、貴方を落として終わりにします」


静かな声は青年には届いたのだろうか。青年は特に言葉を発する事もなく倒れ伏した。
ヴァレンスが来て5分も経たないような短い時間で今回の騒動の首謀者は意図も容易く落ちたのである。


「これが、”筆頭”の…、 実力…」
「私一人の力ではないですよ、相手も疲労していましたし…」


そうは言っても、実力は実力だった。
自分の無力さを感じたのと同時に終わったんだと言う安心感からか腰が抜け、地面に座り込んだ。


「すいません、手を…借りたのと、”一人になるな”って言われてたのに…」
「そこは臨機応変です。寧ろ一人でここまでやってくれた事、助かっています」



アレルは目を伏せた。
暫くの間、無言の静かな空間が続いた。
ヴァレンスも特に何かを言う訳でもなく、静かにサーベルを鞘に収めた。



「もう少ししたら戻りましょうか、私ら治癒魔法はあまり得意ではありませんので…」

辺りを見回していたヴァレンスがアレルへと視線を向け、そう言う。


「ーーーーーあの」
「?」


意を決したような声色で、言い放った。



「僕の、無期限の単独行動を…許して下さい…!」




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