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「何で、お前がここに…?」
「ほんっと気に食わない男よね、あいつ」

吹き飛んだ男を追いかけた為、クレスを押さえつけていた奴らもその場所から少し離れて行った。”大丈夫か”と聞いている声を他所に、エルネットはよろめくクレスを支えながら立ち上がらせる。立ち上がったのを確認すると視線を正面に向け、クレスに背を向けた。その背中に向かってそう問いかけると半ば不服そうな声色で返ってきた。

それは今から数十分程前の事だった。
外の騒がしさに気付いていたエルネットは、街の中を逃げ惑う人々の会話から何と無くだが何が起きたのかを悟っていた。自分はもう、身を引いた身分だ。関わる必要なんてない。だが”リング”の話を聴いていたのもあり、何よりこの街がどうなってしまうのか不安で仕方がなかった。もう二度と握ることなんてないと思っていたサーベルを持ち上げる。懐かしさを感じた。それと同時に思い浮かんだのは嘗ての自分の姿だった。寂しさに似た感情も湧き上がってくる。そんな差中、エルネットの店を訪れたのがエルネット曰く”気に食わない男”ーーーヴァレンスだった。


『どこかへ向かう予定でしたか?』
『 あんたに話す必要なんて無いでしょ』


素っ気ない返事に苦笑を浮かべる。視線を手元に向けると、握られていたのはサーベル。間もない時間で何をしようとしているのかを悟った。


『…戦場に向かうつもりですか?』
『……』
『丁度良かった、と言うのはおかしいかもしれません。ですがお願いしたい事があって今日は来ました』
『何?』
『現在、反国王軍がこちらに攻めて来ているのはご存知だと思います。奴らも頭を使っているようで…特別部隊の控える場所に全てが集まって来ました』


特別部隊。それを聞いて思い浮かんだのはアレル、クレスの姿だった。


『団員の人数が不足してしまい、手助けに行ける人が少なくなっています…私の言う事など聞きたくないのは重々承知していますが、今回はご協力をお願いしたいのです」

協力。
それは特別部隊が今もなお交戦している場所に赴き守り抜けと言う事だ。


ヴァレンスが深々と頭を下げる。確かにエルネットは彼を好んではいなかった。自分がついていくと決めた人ではない彼についていくのは、 自分の中のプライドが許さなかったのだ。

だが、今は。
自分のプライドどうこう言っている場合ではない。下手をすれば、”彼”が好きだったこの街か滅茶苦茶になってしまうかもしれない。それだけは、絶対に嫌だった。

エルネットは暫く黙り込んだ。何があったのかと恐る恐る頭を上げるとエルネットの鉄拳がヴァレンスの頭に直撃する。凄まじい音を立てた。


『っ…!随分と強烈な鉄拳で…』
『あたしは、あんたの命令で動くわけじゃ無いわよ。少なからず、あたしの意志で動くの。彼がーーーー。』




「ーーークロスビーが愛した街を、壊させはしない」


はっきりと言い放った。それは、クレスに向けて言ったのか、目の前の反逆者達に向かって言ったのかは分からない。
エルネットはサーベルを鞘から抜き出す。キン、と静かに鳴り響いた。


「悪いけど、2、3年振ってなかっただけであたしの腕は衰えてないわよ?元騎士団員特別部隊所属、エルネット=カルルスタイン」


名乗りを上げると同時にサーベルを構えた。緊張感がその空間を包む。



「かかって来いよ、大事な後輩を好き勝手したお礼、払ってやる」







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