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がくん、と力が抜けた。サーベルの刃先が地面に突き刺さりそれに捕まってどうにか身体を支えているような感じだった。所々に出来た傷は脈拍と同じリズムで痛み、汗が頬を伝った。

アレルが追いかけてから約半数となった反逆者達とクレスの交戦は未だに終わりを見せなかった。ほぼ全員がこちら側に流れ攻めて来ているのは間も無く確証に変わる。特別部隊は主要戦力の塊。それさえ落としてしまえばあとは容易いかもしれない。相手もただ攻めるだけでは成功しないのだと計算して今日を迎えたのだろう。

その作戦は半ば成功したような物かもしれない。


クレスは身体を支えるのが精一杯のように見えていた。視界が歪む。歪んだ視界に入ってくる人数に苦笑を零すばかりだった。



「ーーーーまだ、居んのか…よ…」



追いかけさせたの失敗だったか、と、小声で呟く。殆ど力の入らない身体に鞭打つように力を込め立ち上がる。地面に突き刺さったサーベルを引き抜くと一瞬身体が傾く。倒れないように耐えて体勢を元に戻すと再び地面を蹴った。

足元に緑色の光を発する魔法陣が描かれる。光が頬を照り返していた。魔法陣の円に沿って砂煙が巻き起こる。クレスはサーベルの側面を指でなぞると淡く光を刃が帯びた。サーベルを振り払えば振り払った形に沿って弧を描いた風の塊が解き放たれる。強風が打ち付け、周りに居た10人程度を吹き飛ばす。順繰りに次へと前へ出てくる反逆者達を同じ動作で吹き飛ばし続けた。

どうにかそれで一定距離以上近付かせる事は避けていたものの、身体の限界が近かった所為もあり、次第に威力を失って行った。最後にもう一回と力を込めた途端に描かれた魔法陣は弾け消え、淡い光が砂の様に宙を舞った。


「……!」


今だ、と言う掛け声が僅かに聞こえた。一斉にクレスを飛び掛かるように襲う。立つのが精一杯だった身体は容易く膝を着かせ、大の大人に押さえつけられた。振りほどくのは今の状態では不可能に近かった。俯いたままだったクレスの顎先を掴むと無理矢理に上を向かせた。


「”忠犬”もこの人数でかかれば簡単に倒せるじゃん」
「殺そうかと思ってたけどなァ…、綺麗なナリしてるし物好きに売れば高いんじゃね?」
「奴隷商人に”売られる側”だったけど、”売る側”になるなんて思っても見なかったな」

言いたい放題だった。”忠犬”と呼ばれる事に良い気はしなかったが、文句を言うのも抵抗するのも面倒に感じる程疲労していた。頭を使わなければ、何か考えなければ、このまま重たい瞼が降りてくるだろう。この会話を聞く限り、これから自分をどうしようとしているのか予測は出来る。


「っせえな…、人の、事、忠犬忠犬って…」
「自分の立場分かって言ってんのかよ、”忠犬”??」


頬に鋭い痛みが走った。口の中に血の味が広がる。暫くしてから殴られたんだと理解した。よっぽど頭の回転が遅くなっているんだと悟った。


「売るにしても暴れられたら困るからなー、気絶して貰わないと…」



相手の言葉が途中で途切れる。呻き声が聞こえたような気がした。気付いた時にクレスを殴った男はどこにも居ない。離れた所で倒れているのが見えた。


「随分とまぁ、好き勝手やってくれてるのねぇ…」


聞き覚えのある声に視線を泳がせた。それと同時に自分の身体を押さえつける強い力がふっと消えて力加減が上手く行かずによろめく。そのクレスの肩を掴んで抱き留めた。視界に鮮やかな空色の髪が揺れる。



「ーーーーエルネット…!?」



声の主ーーーエルネットは小さく笑みを浮かべた。格好は普段と変わらないもののその片手には同じ形のサーベルが握られていた。




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