8


足場の悪い道をひたすら進んだ。
目の前の男もその男と一緒に逃げ出した数人との距離は、姿を見つけた距離とほとんど変わっていない。足場が悪いのと、極力体力を使わないようにする為に一定の距離を保っていた。

近付き過ぎた所為で攻撃を食らったらまともに避けられないと言うのもあった。


一瞬だけ、アレルの方をちらりと見る。直ぐに視線を戻すと、戻した途端に木々が掃けた空間が広がった。先ほど居た場所よりも数倍近くある広さ。


その中心にそれが当たり前であるかの様に堂々と、僅かに笑みさえ浮かべて座る一人の青年が居た。白銀の髪が風に揺れ、髪の隙間からは青緑の瞳が覗く。
歳は見た目だと自分と同じぐらいだと思われる。強いて違いを挙げるのであれば、決して綺麗だとは言えない格好だろうか。


アレルは一度鞘に納めたサーベルに手を掛け、ゆっくりと前に進む。



「ーーーなんだ、一人なのか」


伏せていた眼を開け、アレルを見つめるなりそう呟く。身の危険を感じていないらしく、身構える事もない。

違和感を感じた。
何と口にすれば良いのか思い浮かばない。
暫く無言の間が続いた。
ぱっと、聞かなければならない事を思い出し、問いかける。


「……君が、この争いの首謀者なの?」
「まぁそんな感じかな?俺含め、国王に反感抱いていたし丁度良かったよ。”魔導師”様は流石だね」


青年は口元に弧を描く。
この青年もか、とアレルは静かに落胆しそれと同時に怒りが湧き上がってくる。”魔導師”に頼るとどうなるのかを知らない彼らに何を言っても伝わらないのは重々承知していた。先ほどもそうだったのに、また口にしたくなる。


「”魔導師”は…君らが思っているほどすごくも、偉くも無い…!頼った所で救われない、死ぬこと以外には残されていない…!!」
「違うね、無能な俺達に力をくれた”魔導師”様は”神様”みたいな人だ!あんたに否定する権利なんてないんだよ!」


溢れ出そうな感情がついにラインを越える。


”魔導師”なんていなくなればいい。




「ーーー煩いからあんたも死んで」



青年の低い声を合図に、アレルを追ってきた半数が同時に湧き上がり攻めてくる。瞬時にサーベルを引き抜き、長剣を受け止めた。一撃が重い。よく見れば長剣と”リング”が共鳴し、威力を増大させている。片手では支えきれずに両手で抑えるもこれ以上抵抗すればこの重さだ。サーベルが折れる可能性もあった。それに加えて、辺りを囲うのは反国王を示す反逆者。全員が”魔導師”を神格化しており、”リング”に手を出している。

多少休戦したとは言え、手負いの状態でこの人数を相手にするのは正直な話をするとーーー。


「ーーーしんどい、かな…」


自嘲的に笑った。
判断を間違えたんじゃないかと、自身の愚鈍さに思わず笑っていた。

どちらが尽きるのが先だろうか。

手の力を緩めると長剣を押す力が勝り、前のめりになった隙を狙って避けると、背後に回って肘を落とす。その際背後に回って来た別の敵には風の塊を押し付けて吹き飛ばす。
瞬時に青い光を発した魔法陣を描くと、背後には十数個の水球が生み出される。手を払えば各々が意志を持ったように飛び回り、次々と攻撃する。

相手の一部がこれではまずいと、察知したのだろう。
”リング”をアレルに向けた。


「……?」


何が起こるかと考えて間も無く強い光を発した。余りの眩しさに反射的に眼を閉じた。再び眼を開いた時、視界は真っ暗だった。周りにいた人どころか景色さえも見えない。

アレルが困惑している一方、アレル以外は見えている為ににやりと笑みを浮かべて距離を縮める。感覚を研ぎ澄まし、近づいて来たのを悟るものの攻撃を全て避けられるわけでもなく、僅かな痛みを感じ、左手で握っていたサーベルが離れる。風を切って遠くに突き刺さったような音が聞こえた。それを確認する間もなく、背中に衝撃が生じる。痛みに小さく呻き声を上げると同時に身体が宙に浮かぶような感覚が襲い、風を切って吹き飛ぶ。木に勢いよく背中を打ち付け息が一瞬止まった。


「……っ!」


漸く視力が回復してくる。だが打ち付けた衝撃からか世界が揺れていた。
ずるり、とその場に座り込む。身体が重く思うように動かない。サーベルを離す一歩手前の痛みが原因だろうか。頭が回らない。



「ーーー手負いでいてくれて助かったよ。話がしたかったんだ」
「な、に…?」



青年はアレルの近くに屈み、顔を近付ける。
青年の顔にはじわじわと印が広がっていく。
耳元で静かに囁いた。



「ーーーーーー。」




アレルは眼を見開き、表情を青くさせた。

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