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『”正義”の為に人を殺す』。

それは過去にやってきた事だった。なんの躊躇いも今思えば無かったんだと思う。

だが、今回の場合もそうだろうか。
今までのことも含めて、全てが”正しかった”と言えるのだろうか。
権力者の発言により全てが乱れてしまったその時、圧倒的な権力者に逆らう人々を”殺す”事は”正しいこと”だと言えるのだろうか。

交戦が始まる前に、アレルが呟いたあの言葉が別の言い方で二人に突き付けられた。

しん、と辺りは静まり返る。


「違う…、俺たちは殺そうとなんて思ってない…!」


クレスは握り締めたサーベルに力を込めた。喉元に向けられた刃先を押し返す。



「確かに!”無能な忠犬”呼ばわりされても仕方がないことかもしれない…、事実上国王に従える騎士団に拒否権は存在しないに等しい、だけど…!こんなやり方で国王に訴えたとしても…、受け入れては貰えない! 余計に悪化するだけだ…!」



クレスは”無能な忠犬”という単語に自嘲じみた笑みを浮かべていた。その通りかもしれないと思っていた。言われた通りに従わなければ自分の後が無い。そう思うように”教え込まれた”。

国王の命令は絶対だと。

とは言え、自分も彼らと同じような境遇に居た。苦しさも分かっているつもりだ。だからこそ、罪を重ねて死ぬよりも、正当な方法で自らの考えを伝えて欲しいと強く願い口にした。


だがその訴えは届かなかった。僅かに一瞬怯んだように見えたものの反逆者達はより一層不満が募ってしまったように見える。


「煩い!お前らの言うことをを聞くわけないだろう!力のあるお前らに、俺たちの苦しみが分かるはずも無い!!!」
「だけど”魔導師”様は!私達に力をくれたのよ!”汚いもの”を一掃するための力を!」


最早聞き慣れたと言える単語がその空間を飛び交う。口々に同じ事を言い続けた。



『”魔導師”様こそ、王に相応しい!』



再び沈黙が訪れた。そこに居る人物に誰一人頬には例の印は現れていない。”使われている”訳ではないのだ。

現れていないが、心酔しきっている。
”魔導師”と言う存在がまるで神のような存在へと押し上げられ、頼り、力に溺れ、崇拝するように心酔している。

全員が全員、『”魔導師”様』と口にしている姿に鳥肌を立たせ恐怖を感じていた。

それと同時に、アレルは”らしくない”表情を浮かべていた。


「何が…、何が”魔導師”様だよ…!」


珍しく声を荒げていた。


「”魔導師”に頼っても良い事なんて何もない!いつか使い古されて死ぬだけだ…!」


アレルを捕らえていた男の返答を待つこともなく、腹部に蹴りを入れて自分から離れさせるとすぐ足元に落としたサーベルを拾い上げ、地面に深々と突き刺す。突き刺したサーベルを中心に魔法陣が広がると鞭のように伸びた白い光が雷を発して円を描く。周りを取り囲んでいた十数名とクレスを捕らえていた男にそれを当て、離れた所に吹き飛ばす。

アレルを捕らえていた男を含めた数人が逃げるようにその場を立ち去った。

クレスも直ぐに大勢を立て直す。横目でアレルに視線を送るが、 彼らしくない表情に話し掛けるのを戸惑った。


戸惑って居るのを悟ったのか、アレルがぽつりと問いかけるように呟いた。



「ここを任せて今逃げた奴を追っていい?って聞いたら怒る?」
「……!」
「僕の攻撃をまともに食らったあの男はそう早くは逃げられない、きっと向かった先はこの対立戦の首謀者の所…どうしても、僕が話をつけたい…」


逃げた方向に視線を向けたまま淡々と語る。”魔導師”と言う単語が彼を変えたように、冷たく鋭い目をしていた。


「ーーわかった。でも命令違反で罰を受けるとしたら」
「僕も一緒に。ーーありがとう」


小さく笑った。アレルはそう告げると道を塞ぐ人を薙ぎ倒し木々の中に消えていった。
その後を半数が追いかけていく。クレスにその全員を止める手段はない。それを分かった上でお互いに了承していた。


サーベルを持ち直し、身を構える。


数は半分になったものの、自分の体力とその人数とは比率が違っていた。



「送り出したはいいけど…、お前ら全員止めるのと俺の体力が尽きるの…どっちが先かな…」


再び自嘲じみた笑みを浮かべ、地面を蹴った。




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