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「…変だな」


ぱきん、と音を立ててオーブが割れたと同時にラスはぽつりと呟いた。若干呼吸が乱れているぐらいでほぼ疲れは見られない。そのすぐ近くで交戦していたリノはラスとは正反対に肩で呼吸をしていた。


「変って、なにがよ…」
「数が合わない」


ラスにそう言われてリノは辺りを見回した。倒した数は分かっている。それに街の中心に逃してしまったのも自分が見ていた限りでは誰もいなかった筈だ。それを含めて交戦が始まった時と今とでは明らか過ぎる程に人数が違っている。減っていたのだった。


「減って、る…?」
「さっき逃げてくみたいにここからいなくなる奴が何人も居た」


何で追わなかったの、と聞き返そうとした刹那、再び金属音が鳴り響く。ラスの握っていたサーベルが刀を捉えていた。


「追ってる余裕もくれないのはあっちの作戦だろうな。ーー逃げてった奴らが向かった方向は西方。”主戦力”を先に落とすつもりか…?」


ラスは刃を交えながら淡々と呟き続けた。推理するように呟かれた言葉は勿論リノにも聞こえている。リノも休む間もなく交戦しなければならなかった。


”主戦力”。”西方”。
西方には特別部隊が控えている。
主戦力になる人物がより多く集まったその隊を攻め落とせれば現王の首を落とす事も難しくはないかもしれない。

もしラスが辿り着いた推測が当たっているのだとしたら。
今一番危ない場所は分かっている。
いくら彼らでも”リング”に苦戦する姿も見てきた。

少人数ならまだしも大勢がその方に向かっているとしたら。


リノは心配そうに眉を寄せたが目の前にいる人たちが助けに向かう事を許してはくれなそうで、小さく舌を打った。



一方城内。
真琴は窓から外の様子を眺めていた。
城内を忙しなく動く隊員の会話から今なにが起きているのかは想像出来ていた。
何の連絡手段を持たない真琴は買い物に出たまま帰ってこないリノも、戦いに出陣したアレルとクレスも、心配で仕方がなかった。


いつかこんな事が起こるかもしれないという事は知らされては居たが、いざ起きてしまうと不安が渦を巻いた。

真琴は城内を歩き回り”あの人”の姿を探した。
一般隊員に外に出ることを拒まれてしまった為に、”彼”なら許してくれるんじゃないかと考えた故の行動だ。広い城内を走り回った末にその姿を発見した。


「ヴァレンスさん…!」
「どうかしましたか?私も今から外に向かうので長居は出来ませんが…」
「あの!私も外に出たいんです!さっき出ようとしたら拒まれちゃって…外に出る事、許して下さい!」


真琴の申し出にヴァレンスは一瞬目を丸くさせて驚きを見せた。少しの間しん、と静まり返る。ヴァレンスの手が静かに動き、真琴の肩に触れた。



「すみません、それは出来ません」
「!」
「外は危険です。貴女は…言い方が悪くて申し訳ないですが何の力も無いただの一般人と変わりません。ですから…、ここで待っていて下さい」


ヴァレンスの言い分はごもっともだった。
真琴は返す言葉もなく、深く俯いた。


「どうやら大半が西方に流れてきているらしいですね…、怪我人もいると思います。ここに運ばれて来た住民の手当てを、貴女にお願いします」
「分かりました…、無理を言ってすみませんでした」



真琴は深々と頭を下げながらそう言うと、小走りで来た道を戻った。姿が見えなくなるのを確認すると、ヴァレンスも静かに歩き出す。

「現王は前言撤回の兆しなし…敵は西方に流れ、主戦力を落とすつもりでしょうね…」



誰もいない場所で一度立ち止まり、小さく笑みを浮かべた。



「ーーー片付けましょうか」







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