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音が重なった。金属音と、呻き声に似た物と、叫び声と。二人を囲むようにして攻防戦は続いていた。辺りにはオーブが割れた破片が光を浴びて煌めく。


アレルは同時に降りかかった二本の鉄パイプをサーベルで受け止めると、側面を滑らせるようにして躱し腹に蹴りを叩き込んだ。倒れかかる瞬間を見計らって”リング”のオーブを叩き割るとすぐにもう1人の方と対面した。アレルにとって死角になってしまった場所に素早く反応し、代わりに攻撃をクレスは受け止めた。間合いを詰め膝に蹴りを入れてバランスを崩させるとうなじの辺りに肘を叩き込む。こんな感じの攻防戦は一体どれだけ続いたのだろうか。

一旦間合いを取り、背中合わせに止まる。肩が大きく上下に動き、汗が頬を伝った。辺りを見回すが倒した数とまだ立っている数が全く一致しない。減ると言うより、むしろ増えているように思えた。


「さっきより、増えて、る…?」
「かも、しれないな…!」

増えているなんて思いたくも無いが、それが真実だった。

クレスは汗を拭うと再び地面を蹴った。連続的に繰り返されていた攻撃はだいたい予想が付くようにはなったものの、自分より遥かに体格の良い人物も少なからず居る為重たい一撃を食らう事もあった。今回はそのタイプで、体格の良い1人の中年男性の攻撃はサーベルを横にし片手を刃に沿うようにして添えながら力を込めるも力負けしていた。一瞬でも手を離せば押し切られて刃こぼれした刀が降りかかるだろう。

手が離せないのをいい事にクレスの後ろに1人の女性が回り込んだ。手を前に突き出すと”リング”が淡く光り出し白く太い鞭の様な物が出来上がり、2、3回小さく左右に揺れた後クレスの背中に強く鞭打った。


「っ…!!?」


痛みに向けていた力が緩み、前から掛かっていた押す力に押し切られ後ろに倒れた。
倒れて直ぐにサーベルを構えたから良かったものの相手の刃先はクレスの喉に向いていた。

それを察知したアレルは助けに入ろうとするが前に立ちはだかった人が多く、近付けずにいた。足元に赤い光りを発する魔法陣が描かれるとアレルの周りに火球が多数作られて行く。手を振り払うと火球は前へと飛び、一つ一つがまるで意志を持っているように縦横無尽に飛び回っては当たった。一度にたくさんの量を履けさせる代わりにどっと疲れが押し寄せてきた。

不意に足元に何か違和感を感じた。視線を向けると小さな子供がアレルの足を必死に掴んでいる。


「いや、ころさないで!お父さんもお母さんもみんなを守るために戦ってるんだ…!」


その子供は必死に訴えた。その訴えの意味が痛い程に分かる。だから尚更子供を振り払う事が出来なかった。アレルが子供に視線を向けた一瞬の隙を狙いアレルに向かって飛びかかる。そのまま数に押し切られ後ろに後ずさると木にぶつかり、押し付けられた。アレルの首に掛かった鉄パイプを握る手に力が篭る。



「この餓鬼が言ったように、俺たちの生活を守るためにやってるんだ!!」
「あなた達になんて止める権利はないわ!」


二人は唇を噛んだ。暫く黙り込んだまま睨み見つめていたが、クレスが口を開く。


「じゃなんで、もっと違う…方法があった、はず、じゃないのかよ…!」
「なら逆に聞こうか」



クレスの質問に答えないまま、1人の男が低い声で聞いた。



「お前たちは”王の命令”なら、”身分の低い奴ら”全てを見捨てて殺すのか?」


しん、と静まり返った空間が出来た。
その場所に男の声は響き渡る。


「反逆した俺たちは罪に問われて、反逆した者を殺したお前らは罪に問われない。”正しい事”の判断も出来ないただの無能な”忠犬”なのか!!?」


二人は目を見開く。
同時に手を強く握りしめた。



そしてその言葉は二人に深く突き刺さった。


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