1


王妃様が誰かに殺されてから早数日が経った。国王及び騎士団内ではなんとも言いにくい緊張感が張り詰め、背中をぴりぴりとさせている。その日から行方不明となったアーネストは未だに見つかっていない。基本ギリギリの人員でしか活動していない騎士団で、アーネスト一人の存在は色々な意味でダメージを負わせていた。中央部では不安が募る、一方でリングを使った事件などは一切起こらず、一時的ではあるものの国民にとっては平和であった。
その平和は一部の人にとっては、恐怖に感じる。
それは2日前に遡る。



国王マーヴィンはマーヴィンの控える一室に、ヴァレンス、アレル、クレス、その他四大騎士などを呼び出した。仕事中の急な収集にも関わらず時間は掛からずに集合した。


「私は、先日最愛の妻を亡くした」


唐突に呟かれた言葉は、しん、と静まり返った部屋に響き渡る。 思い返したくもない事実を再び突き付けられた気分だった。


「私の妻を殺した奴は、全員この王都から遥か遠くの村の者ばかりではないか!…、これが、何を意味するか分かるか?」
「……マーヴィン様、何をなさるおつもりですか?」



ヴァレンスは静かに問いかけた。
マーヴィンは一度目を伏せると、真っ直ぐとヴァレンス達を見つめる。その目は冷たく冷え切り、嘗ての優しさなども感じさせないようなものであった。


「インフルト、王都の中で最も端にある街より先の援助を一切断ち切る。面倒を見る必要もなかろう!」


その発言に、その場にいた全員が絶句した。
インフルトは以前真琴が一番最初に訪れた街の事である。リードルフの先にある森の中央に開かれた一本道を進んだ街。王都「リードルフ」に含まれる一部の市。そこから先の町や村への援助を一切辞めるのだと言うのだ。王都から離れるにつれて治安の悪化が目に見える一方で国からそれに対する生活的支援を受けていた。それが無くなってしまうのだと言う事は生活の手立てが無くなってしまうだけではなく、更なる治安悪化と飢餓が起こる事が目に見えていた。


「国王様!さすがにそれはやりすぎです、貴方は国一番の権力者でありながら、象徴…!そのような方が国民を手放すような発言は…!」

アレルは必死にそう訴えた。
途中で怒鳴るように遮られる。


「ーー口を慎め。最愛の妻を亡くし、子供など”いない”私の心の傷など分かるまい。これは決定事項だ」


その一言に、違和感を感じた。
彼ら二人の脳内には一人の少女の姿が思い浮かぶ。
つい先日会ったばかりの少女。


「子供が、”いない”…?」
「何を、仰っているのですか…?」
「それは私の台詞だ。私たち夫婦に子供は生まれていない!紛れもない事実だ!」


その一言で疑問が確証に変わる。
嘗て国王夫妻の子供で”あった”少女は、消えたのである。”アリス”の候補者であったあの少女は”誰か”の手によって殺され、蝶を失い、人々の記憶からも全て消え失せた。

本来であれば、”アリス”の候補者が他候補者の蝶を奪った場合”誰が受け取ったのか”を本能的に悟るのだ。
だが今回は、彼ら二人だけではなく、真琴もリノもーーラスも悟らなかった。知り得なかった。

つまりそれは、『”アリス”の候補者ではない”誰か”が蝶を奪った』のだと言う事になる。


「この話は間も無く国中に広まるだろう。反逆者も出るはずだ。だがお前たちは命を尽くして、反逆者を止めるのだ…!」


はい、以外の返事は認められなかった。
一国王のその発言は然程の時間も無く広まった。

警備及び警戒も以前以上に強くなり、時間があれば見回りをするように言われていた。
アレルとクレスはリードルフ内を歩き回る。

時折聞こえてくる会話が実に耳障りに感じた。


「一切の援助が無くなるって言ったって、この王都にいれば問題ない話なんだろ?」
「そうだわ。国王様は”汚い者”を無くそうとしたに過ぎないの。私たちには関係ない事ね」
「むしろ”正しい判断”を漸く下したんだ!」


国王でありながら、あるましき発言をリードルフの住民は素直に受け入れ、肯定さえして見せた。


感覚が狂っているのか、
思考が腐っているのか。

虫酸が走った。


「ーー腐れ貴族が、自分さえ良ければいいのかよ…」


クレスは小さく舌打ちをすると、低い声で呟いた。
それは確かにその通りで、アレルも否定出来ずに言葉を失う。
クレスは今は故郷が無いとは言え、以前は支援を受けていた場所に生まれ生きていた。
そこでの暮らしがどれだけ悲惨かが分かっている以上、より一層住民の言葉は腹立たしく感じた。
そんな中、脳内に直接声が響く。

伝令の魔法だろう。
ヴァレンスの声が聞こえてきた。


『予想はしていましたが、”来て”います。各隊員は持ち場について下さい』


ついに来たか、と、内心思う。
予想はしていたものの心が折れる気分だった。
”反逆者”に値する大量の国民がこちらに向かって押しかけているのだ。


『リングの使用も可能性的に否定出来ません、くれぐれも、一人で応戦しない事』


ヴァレンスの声もどこか緊張感があるように思える。


『ーーー守り、抜きます…!』







[ 111/195 ]

[*prev] [next#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -