prologue




「ねぇ、いるんでしょ? 」



真っ暗な部屋に向かって叫ぶように問いかけた。ミルはゆっくりと歩を進める。ヒールの音が響く。中央にある太めのポールの影に”あの人”は姿を現した。相変わらず表情は読み取れない。


「失敗したようだな」
「…うん」


その声に少しだけ俯く。一言以外の言葉を返さずに暫くの間黙り込んだ。沈黙が続く。カーテンの隙間から漏れ出す太陽の光が空気中に舞う小さな糸くずを照らしていた。



「私はあなたに話があって来たの」
「………」
「私は、もう、無理やり誰かを犠牲にしてまで弟を取り戻したいとは思わない。”アリス”を、決める為に新しい方法を探す事にしたわ」


ミルの言葉ははっきりとしていた。
迷いなんてない。
本気でそう考えているのだ。


「だから、協力してもらったのにごめんなさい」


さようなら、と振り返りざまに言った。
もう彼女が振り返る事はない。

再びゆっくりとした足取りで来た道を歩み始めた。



「ーーーーそうか」



低い声と、一回の銃声が重なった。



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